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アンチエイジング、「カロリー制限」と「酸化ストレス」の2仮説が主流

2013年12月4日、慶應義塾大学で、第5回慶応義塾生命科学シンポジウム「食と医学フォーラム〜食・運動・ごきげんでアンチエイジング!」が開催された。この中で、坪田 一男氏(慶応義塾大学 医学部眼科学教室教授・SFC研究所ヘルスサイエンス・ラボ共同代表)が「食・運動・ごきげんでアンチエイジング」と題して講演、アンチエイジングを実現するための秘訣を語った。

120歳長寿の秘訣、「正しい食事」「運動」「ごきげん」

坪田氏が代表を務めるヘルスサイエンス・ラボは慶応義塾大学SFCキャンパスに2011年10月に誕生した研究室で、ここでは「健康科学」をテーマにさまざまな研究を行い、世界中で発信されている健康情報を最新のIT手法で分析・解析し、解説することを重要な使命としている。科学的根拠(エビデンス)に基づく正しい情報発信で、「健康科学」を「健康で幸せに長生き」という万人の願いのかなう、日本の未来を創造する学問に発展させたいとしている。

超高齢化時代とともに、アンチエイジング(抗老化)への関心は高まる一方である。坪田氏によると、現在、アンチエイジングを実現するための医学的仮説として「カロリーリストリクション(カロリー制限)」と「酸化ストレス」の2仮説が主流になっているという。

それらを科学的に探究すると平均寿命120歳も近い将来夢ではないが、そのための具体的なアクションが「正しい食事」「運動」「ごきげん」の3つ。

中でもとくに重要なのが「食」、時間栄養学という学問により、食べる時間で体内物質の発現に異なる影響が出ることが明らかになりつつある。また微量栄養素のビタミン・ミネラルを過不足なく摂ると「酸化ストレス」を抑制することなども分かっている。

この「酸化ストレス」は主に活性酸素によりもたらされるが、活性酸素を除去する抗酸化成分を積極的に摂ることがアンチエイジングに繋がると考えられている。代表的な抗酸化物質には、ビタミンA,C,E、ルテイン、ゼアキサンチン、アントシアニン、アスタキサンチンなどがある。また近年では赤ワインのポリフェノールのレスベラトロールにも注目が集まっている。

「腹八分目」、カロリスによるアンチエイジング効果

「カロリーリストリクション」(以下カロリス)とは、食事からの摂取カロリーを抑えることだが、このことが長寿に繋がることが解明されつつある。昔から、「腹八分目」が、身体に良いといわれていたが、実はアンチエイジングにも通じていたというわけである。

このことはマウスやサルの動物実験でも確認されている。(ビタミン・ミネラルなど栄養成分が十分確保された)通常食の総摂取カロリーを65%〜70%に抑えたものを与えると、寿命が伸び、さらに全体にも若々しい印象になったことが明らかになったという。これはカロリスにより、サーチュインと呼ばれる細胞の寿命を伸ばそうとする酵素の活性化が考えられている。

カロリスにより体内で遺伝子の発現が変わり、インスリンホルモンやサーチュイン(長寿)遺伝子、さらに最近では「ケトン体」の量にも変化が起きることが分かってきている。

坪田氏自身は眼科医だが、カロリスを続けると涙腺の中の長寿遺伝子が発現することも分かってきているという。過度なストレスがかかると瞬きの回数が減少し、目の酸化が促進し目の老化が進む。しかしカロリスをすると体内のケトン体が増え、ケトン体は脳の中で糖に代わる有効な栄養素として働き、酸化した目やドライアイを改善する方向で働くという。

歩行速度こそ長寿を決める最大因子

「運動」の効用については、脳の活性化やガン抑制、ストレス解消などが挙げられる。運動で生じるストレス(負荷)で、例えば一日に1回程度心拍数を上げることはむしろ良いストレスとなって長寿に役立つことが考えられる。
近年、運動することでイリシリンというホルモンが分泌され、細胞内のミトコンドリアに働きかけアンチエイジングに働くのではないかというメカニズムも解明されつつある。

また、最近日本でロコモティブシンドロームが話題となっているが、歩行速度が遅い人は、寿命が短いというデータも出ており、「歩行速度こそ長寿を決める最大因子だった」という説もあると坪田氏。

人類100万年の歴史のうち99万年は狩猟民族で、その中で生き残れるのは体力があり、視力が良く、頭を使って獲物を獲得でき、仲間とチーム作業できる民族だった。運動をしている時こそ脳が最も活発に使われ、脳のアンチエイジング効果が期待できるという。

パソコンやスマホ、タブレットからの強烈なブルーライトが目の老化を加速

視力に関していえば、これまで「目」は物を見る「カメラ」の役割しか果たしていないと思われてきたが、実は「電波時計」の役割を果たしていることが明らかとなっている。睡眠時間が減少したり不規則になったりすることでこの「時計」の機能が壊れていく可能性あると坪井氏。

パソコンやスマホ、タブレットからは強烈なブルーライトが出ており、その刺激が目のエイジングを加速させていることは数年前から問題となっている。今は乳幼児さえタブレットで遊ぶようになり、長期間ブルーライトを浴びることによって今後どのような健康被害が生じるのか、「時計」の狂いがどのような問題を引き起こすのか、日本小児医学会でも懸念している。同学会では、「子守りをタブレットにさせないで」キャンペーンをはじめたところだという。

「ごきげん」な人は長寿、先進国の人々の「ごきげん度」が低下傾向に

最後に「ごきげん」だが、「ごきげんな人=happy people」は長寿であるだけでなく、成績の向上、生涯年収の向上につながることが疫学データでも明らかとなりつつある。「ごきげん」状態は脳と体を過剰なストレスから守ることもわかっているという。

「ごきげん」の最大のメリットは「自分で選択できる」ということ。災難に見舞われても、ただがっかりして時間をやり過ごすのではなく、「それでもごきげんでいよう」と選択することが可能である。ある程度訓練すれば、誰でもどんな状態でもごきげんでいられる。

ごきげんでいるためのアプローチ法として科学的に証明されていることは、よく笑うこと。おもしろい時に笑うのは当たり前だが、面白くない時でも笑顔でいると、脳は随時ごきげんモードに切り替わることが証明されているという。

また、ごきげんでいるために重要なこととして近年「睡眠」が注目されているという。人類は物質的に豊かになっているが、先進国に住む人々の「ごきげん度」は低下傾向にある。これは睡眠時間の減少と比例しているという。

ただし、やりすぎには弊害も

「カロリス」「運動」「ごきげん」、この3要素はアンチエイジングの鍵となる。ただしやり過ぎには注意が必要と坪田氏。「カロリス」も極端に栄養成分の欠落したカロリー制限食ではむしろ健康を損なう恐れがある。あくまでも、「腹八分目」という目安で、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素を十分含んだ食事が必要である。

「運動」のやりすぎもまた、高齢者には突然死や疲労骨折などのリスクも伴う。また「ごきげん」についても、極端な楽観主義に走ると過剰投資や甘い人生予測に苦しめられる場合もある。アンチエイジングに「カロリス」「運動」「ごきげん」は欠かせない要素だが、やりすぎはストレスを招き、活性酸素発生の要因ともなる。なにごとも「極端」ではなく「適度」ということを心がける必要がありそうだ。

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