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1960年代、放射能をたっぷり浴びながらも平均寿命で世界トップに
「人工放射性核種による内部被曝」は日本に何をもたらしたか

1960年代、米ソを中心に盛んに行われた大気圏での核実験で、日本は10年以上の長きに渡り、「人工放射性核種」による高い被曝を経験している。 今回の福島原発事故で飛散した放射性物質もその時代とほぼ同水準といわれる。1960年代の人工放射性降下物がはたして日本人の健康にどう影響したのか。日本人の平均寿命からそれを探ってみたい。

福島原発事故での放射性降下物の累積量、1960年代と同水準かそれより多め

平均寿命は、毎年の年齢別死亡率から算出される。災害や流行性の疾患、戦争による死者数も平均寿命に反映されるが、戦後の日本にはそうした要因による大きな変動はない。

1960年前後、米ソを中心に盛んに行われた大気圏での核実験で、日本に多くの「人工放射性核種」が降り注いでいる。福島原発の事故の際、降雨や風向きの関係で、3・4月に茨城県ひたちなか市で、突出した高い降下数値が観測されているが、1960年代は10年以上の長期に渡る。今回の福島原発事故での放射性降下物の累積量は1960年代と同水準かそれより多めといったところであろう。

福島原発事故で飛散した放射性物質(とくにセシウム)で、がんなど健康被害がもたらされると懸念されているが、はたしてそうした深刻な事態に至るのだろうか。

かつて「人工放射性核種による内部被曝」を日本中が経験していた

日本における「人工放射性核種」の降下の歴史を振り返ってみよう。1940年代後半あたりから、各国で盛んに大気圏での核実験を繰り返している。これによりどれほど被曝しているかがわかるであろう。

日本では、1945年の原爆投下で、広島にウラン235、長崎にプルトニウム239が降下した。この年を皮きりに米国が大気圏での原爆実験を開始、1949年にはソ連、続いてフランス、イギリス、インド、さらに中国も1960年代後半〜1970年代前半にかけて核実験を行う。総数にして528回、総爆発収量は440メガトンといわれる。降下したのは、ストロンチウム89,90、セリウム141、ルテニウム103,106、セシウム137、バリウム140、ヨウ素131、クリプトン85など。

日本では、とくに1960年前後の10年以上にわたり、「人工放射性核種」が海や山、田畑や町に降り注ぎ、飲用、土壌からの作物摂取で、胎児も乳幼児も妊婦も摂り込んでいる。セシウムに関しては、多くの所で現在より1960年代のほうが多かったといわれている。

「人工放射性核種」が多く降り注ぐ1960年代、日本は世界の長寿国に仲間入り

こうした「人工放射性核種」が日本人の健康にどう影響したのか。マクロ的ではあるが、日本人の平均寿命をみると、1900年(明治33年)では、平均寿命が40代前半(欧米では50歳を超える)。1920年(大正9年)では、世界で50番以下。1945年(昭和20年)に広島・長崎原爆投下。1947年(昭和22年)に、ようやく日本人の平均寿命が男女とも50歳になる(欧米に遅れること50年)。以降、1970年頃まで、10年以上にわたり、「人工放射性核種」による被曝がもたらされる。

1950年代には主要先進国中でも最低だった日本人の平均寿命だが、「人工放射性核種」が多く降り注ぎ始めた1960年代あたりから日本は世界の長寿国の上位クラスに仲間入りする。1970年代〜80年代には総て抜き、遂に1985年、日本は平均寿命で世界のトップに立つ。男性は75.911歳、女性は8l.77歳。ここから日本の長寿神話が始まる。

放射性物質、がん化原因の活性酸素に対抗

1960年代、放射能をたっぷり浴びながらも、なぜかその頃から日本人の平均寿命が飛躍的に伸びている。50年後の現在も日本は依然トップである。

平均寿命の伸張の要因として、医療技術の進歩、衛生管理や食の栄養面での向上などが挙げられる。
では、放射性物質がどう関わったのか---。
がんが増えたとの指摘もあるが、統計上の大きな要因としては、高齢者の人口増が挙げられる。さらにいえば、細胞のがん化に活性酸素が深く関わっていることがいえる。1960年代の高度経済成長期、農薬や食品添加物などの化学物質、大気汚染で活性酸素が多く発生し、細胞の過酸化やDNA損傷が進んでいる。

活性酸素の発生には放射線が関わっていることも指摘されている。しかし、この点で大変興味深いのが、低線量の放射線の場合、細胞内の水の電離作用で一時的に活性酸素が発生するが、その一方で、遺伝子の応答反応により抗酸化酵素が誘導されることである。

低線量の放射線をマウスに照射した実験で、活性酸素除去酵素の誘導が明らかになっている。また1987年のファイネンデーゲン博士らがマウスにX線を照射した実験でも、活性酸素除去のSOD酵素やGPX(グルタチオンペルオキシダーゼ)が増加することが確認されている。

低線量の放射線の作用については、DNA修復力の向上、ガン抑制遺伝子p53の活性化、過酸化脂質の減少などがこれまでに分かっているが、むしろ活性酸素でもたらされたダメージを放射性物質が補修にあたっているということがいえそうだ。 玉川温泉や三朝温泉などでのがん治癒や予防効果をみると、そうした作用で免疫強化がなされていることがわかる。

半減期が30年といわれるセシウムだが、マウス実験でがん抑制効果が報告されている。
電力中央研究所が行った実験で、セシウム137線源をマウスに1カ月ほど照射し、その後に発がん剤のメチルコラントレンを投与したところ、発がん剤だけを投与したマウスは216日経過した時点で約94%にがんが発生したが、線源から5mの距離に置いたマウスは、がんの発生率が明らかに低く、がんの発生抑制が示唆されたことも報告されている。

低線量放射線研究センター設立記念シンポジウム(2001.5.16)概要 >


ヘルスネットメディア

主要先進国における平均寿命の推移 > 拡大


「産経新聞」2011.4.29
1960年代、10年以上にわたり「人工放射性核種」が降下


4.10「東日本の放射線状況を報告する会」
札幌医科大学教授 高田純 医学博士

全国の放射能濃度一覧 >

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