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女性の喫煙、子供の注意欠陥・多動性障害(ADHD)発症の一因に
〜シンポジウム「健康と化学物質〜幼児行動」

近年、深刻化する少子化、加えて問題になっているのが、子供たちの間で増えている注意欠陥・多動性障害(ADHD)。先進諸国で増え続け、米国では15%の親が子供の情緒不安定な言動などADHD特有の症状に悩んでいるという。胎児への化学物質暴露や母体のストレス、また妊娠中の喫煙も一因との指摘もある。

胎児の脳内ニコチン濃度、喫煙妊婦の血液中に比べ2.5倍高い

2月9日、シンポジウム「健康と化学物質〜化学物質と幼児行動」(主催:日本食品衛生協会)が開催された。この中で、鍋島俊隆教授(名城大学大学院薬学研究科)が「化学物質による心と知能の障害」と題して講演した。

胎児の脳神経系は、女性の周産期(妊娠満22週から出生後満7日未満)に急速に発達する。ところが、化学物質など血中から脳内への侵入を制限する血液脳関門は未発達のまま。 「神経情報伝達の基盤となる受容体は胎児期から新生児期にかけて形成され、化学物資に曝露される危険性が最も高い」と鍋島氏は指摘する。

近年、問題になっている子供たちの注意欠陥・多動性障害(ADHD)。幼児期から12-13歳頃まで不注意や衝動性など情緒不安で突発的な言動が目立つ障害だ。
発症のメカニズムは未だ不明だが、「遺伝的素因に加え、化学物質暴露、感染、ストレスなどの環境的要素が相互的に作用して発症すると考えられている」(同)。

現在、明らかになっているのは、妊婦の喫煙による胎児への影響。タバコのニコチンが胎児の脳神経系に作用し、ADHDの発症原因の一つになっていると考えられている。
妊婦の喫煙は胎児にどのように影響するのか---。
「ニコチンは速やかに脳内へ達し、ニコチン性アセチルコリン受容体を介し、神経機能に多彩な影響を及ぼす。妊娠中は分娩後に比べてニコチンの代謝が約1.6倍亢進している」(同)。
さらに、「ニコチンは速やかに分解されるが、羊水におけるニコチンの濃度は血中濃度の約1.5倍と高い、乳汁では2.5〜2.9倍とさらに高濃度。胎児の脳内のニコチン濃度は母親の血液中に比べて2.5倍高いことが報告されている」(同)という。

高濃度のニコチンに胎児や新生児は曝露されている。「ニコチンの有害作用は母親よりも子どもの方が深刻。妊娠中に喫煙した母親から生まれた子どもはADHD、うつ病および薬物依存症の発症率が高い。ニコチンが子どもの脳に作用していることが示唆されている」と鍋島氏。

また、妊娠中のストレスも胎児のADHD発症に関連する。母親が妊娠中にストレスを受けた子供はADHD症状のリスクが2倍に増加することが報告されているという。

胎児の健全な脳機能形成に何が必要か

妊娠中の女性はADHDの防衛策としてまず禁煙を行うことが必要であろう。さらに、日頃の「食」で、胎児の健全な脳機能の育成を図るには魚の摂食も一つの方法だ。

魚はEPAやDHAといったω-3系脂肪酸を多く含み、脳機能の改善に役立つという報告が多い。
ADHDとも関連するが、子供が発達性協調運動障害(DCD)で学習や行動に問題を抱えている場合、ω-3系脂肪酸やω-6系脂肪酸が有効性を発揮するかも知れないという報告もある。
オクスフォード大学研究者グループが、5〜12歳のDCD患者117人を対象に6ヶ月間、被験者に、ω-3系脂肪酸およびω-6系脂肪酸(エイコサペンタエン酸558g、ドコサヘキサエン酸174mg、γ-リノレン酸60mg)か、プラセボ(研究期間半分で、サプリメントに移行)のどちらかを与えたところ、サプリメントグループは最初の3ヶ月で、行動、読み書きに目立った向上が見られたという。ただ、運動機能では目立った変化は起こらなかったという(Pediatrics誌05/5月号)。

また、The Lancet誌07/3月号によると、魚の摂食は子供のIQ値上昇に関連するという。
US National Institute of Alcohol Abuse and Alcoholism研究者グループが、妊婦11875人が参加したAvon Longitudinal Study of Parents and Children(ALSPAC)データを分析。被験者を、魚介類を食べない(12%)、いくらか食べる(1〜340g/週、65%)、340g/週以上食べる(65%)のグループに分け、出産後、子供のIQを、生後6ヶ月から8歳まで測定したところ、魚介類を食べない母親から生まれた子供の50%以上が、IQの最も低い分類に入ることが分かったという。

関連して、海産物や塩などに多く含まれるヨウ素についても胎児の脳機能の発達に関与することが報告されている。
ヨウ素が欠乏すると、知的または精神的な障害を持つ子供が生まれやすくなるといわれる。例えば、ヨウ素不足による甲状腺機能低下症の妊婦がその治療を怠たるとIQの低い子供が生まれる率が4倍も高いことも報告されている(New England Journal of Medicine誌'99 8/19号)。
甲状腺機能低下症の女性62人と正常な女性124人を比較し、その7歳から9歳までの子供たちの知能についても調べた研究では、甲状腺に異常のある母親の子供たちのIQは正常な母親のそれより平均して4ポイント低かったという。また女性の50人に1人は妊娠中に甲状腺機能低下症であることも判明したという。


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