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乳製品からのカルシウム摂取、脳卒中の発症リスクを低下

今年4月、厚生労働省研究班が、乳製品を多く摂ると前立腺がんの発症リスクが1.5倍高まる、という研究結果を公表した。これにより、乳製品でのカルシウム摂取が懸念されたが、7月、同研究班は、13年間にわたる約4万人の追跡調査で乳製品からカルシウムを多く摂ると脳卒中の発症リスクが低下することが分かったという研究結果を報告した。

13年間約4万人を追跡調査(厚労省研究班)

研究では1990-2002年、岩手、秋田、長野、沖縄に居住の40〜59歳の男女約4万人を対象に追跡調査した。調査開始時に被験者は、循環器病やがんに罹患していない。追跡調査中に、1,321人が脳卒中、322人が虚血性心疾患を発症している。

研究班は、食習慣のアンケートから、牛乳やチーズ・ヨーグルトなどの乳製品からのカルシウム摂取量、それ以外の大豆製品や野菜からのカルシウム摂取量を調べ、13年間にわたり追跡調査した。 研究では、総カルシウム摂取量で5グループに分け、脳卒中、虚血性心疾患の発症リスクとの関連を調べた。結果、総カルシウム摂取量の最も多いグループは最も少ないグループに比べて脳卒中の発症リスクが0.70倍低いことが分かった。また、乳製品からのカルシウム摂取量が最も多いグループでは最も少ないグループに比べて、脳卒中の発症リスクが0.69倍低いことが分かった。

カルシウムが脳卒中のリスク低下に有用であることはこれまでにも報告されている。Stroke誌'99/9月号で、カルシウムを1日400mg以上摂取した女性は脳溢血のリスクが低いことが判ったと報じている。これはNurses' Health Study(86,000人以上の看護婦を対象とした調査)で、脳溢血の発作に関して34〜59歳までの女性を対象に1980年から14年間の食事内容のアンケート調査結果をボストンの研究チームが分析した結果判明したもの。カルシウムがコレステロールレベルを下げる、コレステロール形成を防ぐ、あるいは血液の凝結を防ぐなどして、脳溢血のリスクを下げるのではないかとみている。

また、University of Bristolの研究者グループが、中高年男性650人以上を対象にした20年にわたる追跡調査で、ミルクを少なくとも200ml/日飲む被験者は飲む量が最も少ない被験者に比べ、卒中の危険性が約半分だったことが分かったという報告もある(Journal of Epidemiology and Community Health誌05/5月号)。

乳製品のカルシウム、摂り過ぎは前立腺がんのリスクを高める

ただ、乳製品からのカルシウムの摂り過ぎは前立腺がんの危険性を高めることも報告されている( United Press International)。ハーバード大学が11年にわたって行った研究で男性内科医2万885人のライフスタイルを分析したところ(このうち、1千12人が前立腺がんと診断)、全乳、スキムミルク、シリアル、チーズ、アイスクリームなどからカルシウムを最も多く摂取したグループの20%は前立腺がんの危険性が34%高かったという。

'99年のAmerican Assoc. for Cancer Research年次総会でもハーバード大の研究グループが同様の報告を行っている。カルシウムの摂り過ぎと前立腺がんの危険性の増大については、ビタミンDが前立腺がんを予防する効果が報告されているが、カルシウムがビタミンDの作用を抑制し、がんの転移を促進させるためではないかとみられている。これまでに、1週間にグラス6杯以上の牛乳を摂取する人は2杯以下の人に比べ、ビタミンDの血中レベルの低いことが判明している。

カルシウム、結腸がんの発症リスクを低下

一方で、カルシウムは結腸がんのリスク低下に役立つという報告もある。 International Journal of Cancer誌06/11月号によると、カルシウムは結腸がんの危険性低下に有用であるという。 Vanderbilt University Medical School研究者グループが、女性73,314人(平均年齢55.5歳)が参加したShanghai Women's Health Studyのデータから、食品77種の摂取状況を食品摂取頻度調査により評価した。
5.74年の追跡調査の結果、最も多くカルシウムを摂取したグループでは最低量のグループと比べ、結腸がんにかかる危険性が40%低くなっていることが分かったという。

また、American Journal of Clinical Nutrition誌06/4月号でも、カルシウムは結腸がんの危険性低下に有用であると報じている。 Karolinska Institute研究者グループが、スウェーデン人男性の45-79歳、45,306人を対象に、カルシウムおよび乳製品と結腸がんリスクとの関連性を調べた。結果、総カルシウム摂取が最も高いグループでは最低グループと比べ、危険性が32%低くなっていることが分ったという。

イオン化されたカルシウム、骨・血液・細胞のカルシウムバランスを崩すおそれ

カルシウムには炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、乳酸カルシウムなどがある。カルシウムの主な働きとしては、骨や歯の形成、筋肉の収縮・弛緩の制御、神経細胞間の情報伝達物質への作用、血液凝固、免疫への作用、ホルモン分泌の調整など。カルシウムは人体で約0.25%を占め、うち99%が骨、残りの1%が血液中に存在する。微量ではあるが細胞内にも存在しており、骨・血液・細胞での絶妙なカルシウムバランスが健康維持の重要なファクターとなる。

ところで、イオン化されたカルシウムだと、摂取後、急激に血中にカルシウムが増え、人により異なるものの2-8時間で血中のカルシウムを急増・急減させるダウン症状を引き起こすといわれている。骨・血液・細胞における絶妙なカルシウムバランスが崩れ、骨からカルシウムが遊離し、副甲状腺ホルモンによるカルシウムの血液中への溶出機能が停止し、免疫細胞内やホルモン分泌細胞内にカルシウムが入るといわれる。

腎臓は、血中のカルシウムの増加を減らそうと急激な排泄を行い、逆に血中のカルシウムが急減し、カルシウム不足を招く結果となる。骨塩量は増えず、骨以外の部位の神経や血管、筋肉や靭帯などにカルシウムの沈着が進み、運動障害や動脈硬化、神経障害などを引き起こすという。これに対し、小魚や野菜類に含まれる天然のカルシウムはそうした急激なダウン症状を引き起こすことはないといわれる。


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