日本では中国製ヤセ薬による健康被害の影響で、ダイエット食品産業が直撃を
受け、売上げ低迷を余儀なくされた。一方、肥満大国の米国でもダイエット
素材「エフェドラ」の安全性に疑問符が付いたが、圧倒的なニーズを背景に
ダイエット産業は依然堅調な推移を辿っている。不況知らずの米国ダイエット
産業の近況を報告する。
人口の半数以上が太りすぎ、成人の24%がダイエット試みる
米連邦疾病対策予防センターによると、アメリカで成人人口の半数を上回る
約9700万人、性別でみると、男性の約59%、女性の51%が太りすぎであると
いわれる。また、人口の約4分の1がBMI30以上の肥満だと推定される。
さらに、基礎代謝が急カーブで落ちていく40代にベビーブーマー世代が次々
と突入していることから、太りすぎ人口の右上がりは必至。
ギャラップ調査らの調べによると、太りすぎの女性の数は2005年までに12%
上昇すると予想される。さらに、ここ数年、深刻な社会問題にまでなっている
子供の肥満も加わって、ダイエットブームはますます拍車がかかるといえる。
大手ダイエットセンター「ザ・ウエイト・ウォッチャー」がダイエットを始め
た動機について調べたところ、女性の場合、「見た目を気にして」が29%で
トップ、「年をとってからの健康を心配して」が21%、「現在の健康を心配し
て」が16%と続く。
これに対し、男性は、トップが「将来の健康」で29%、
次が「見た目」の18%、「現在の健康」は16%だった。ちなみに、カロリー
・コントロール審議会が2001年、全米で行なった調査によると、成人人口
の24%がなんらかのダイエットを試みているという。
米国ダイエット市場は465億ドル
太りすぎ人口の増加とスリム願望の高まりで、米国ダイエット市場は約465億
ドルに膨れ上がっている。健康産業業界誌「ニュートゥリション・ビジネス・
ジャーナル」によると、低脂肪、低カロリー、シュガーフリー、ダイエット
ソーダといった食品系が、ダイエット関連総売り上げの86%を占めている。
一方、ダイエット・サプリメント系の売り上げは、「SlimFast」などのリキ
ッドタイプ・代替ミールを含めて約39億ドル。「代替ミール」の売り上げ
がサプリメントをわずかに上回り、ともに2桁代の伸び率をあげている。
ポスト・エフェドラに緑茶とビター・オレンジ
健康食品店はもとより大手量販店にずらりと並んだダイエットサプリメント。
これまでに「ダイエットに効く」と話題になった成分は数知れない。服用
すれば基礎代謝を高める、食欲を抑制する、脂肪の吸収を抑える―と、
「飲んだらやせる」という手軽さが人気の秘訣といえるだろう。しかし、
メタボライフといったヒット商品の主成分「エフェドラ」の安全性に疑問符
がついたことから、ダイエットサプリメントの売れ行きはやや低迷気味。
なんとかして盛り返しをはかりたいサプリメント業界だけに、ポスト・エ
フェドラ探しに熱が入る。
そこで第二の「エフェドラ」と注目されているのが「緑茶エキス」と「ビタ
ー・オレンジ(オレンジの皮からとったエキス)」。とくに緑茶エキス入り
ダイエット・サプリメントは、抗酸化作用とのダブル効果でいま最もホット
な商品といえるだろう。緑茶に含まれるカフェインが全身の代謝を活性化し、
ダイエットに役立つといわれる一方で、「効果を立証するにはデータ不足」
という効き目を疑問視する声も上がっている。
「ビター・オレンジ」に期待をかけているのは、大手サプリメント会社の
「ハーバライフ」と「ツインラボ」。両社ともに、エフェドラ入り自社商品
による死亡事故で訴えられており、昨年、エフェドラ入り全商品の販売中止
に踏み切った。
それと同時に、新商品として発売したのが「ビター・オレンジ」を主成分に
したダイエット・サプリメントだ。ビター・オレンジに含まれるSYNEPHRINE
という物質に基礎代謝を高める働きがある。そこでエフェドラに代わる新
成分として注目されているわけだが、安全性と効果を裏付ける科学的データ
は極めて乏しく、ジェネラル・ニュートゥリション・センターの「未成年には
売ってはいけない商品リスト」にも名前を連ねている。
そうした不安定な要素をかかえる中、緑茶エキス、ビター・オレンジ、カフ
ェインの3成分を総動員した究極のダイエットサプリメントも登場している。
ニュージャージー州に拠点を置くCytodyne Technologiesが昨年、発売した
「Xenadrine-EFX」。すでに同社のエフェドラ商品の売り上げを大幅に上回っ
ているという。
エフェドラの安全性については、現在、ブッシュ政権の依頼で調査が行なわれ
ており、3月中にもその結果が報告される模様だ。その結果、もしエフェドラ
商品が全面販売禁止になれば、ダイエットサプリメント業者の新素材探しは
ますます加熱しそうだ。
リキッドタイプの代替ミールが人気
サプリメントと互角にダイエット市場で幅をきかせているのがリキッドタイプ
の代替ミール。もともとは、忙しくて食事をとる時間のない人たちが、健康に
必要な栄養素をとるために開発されたドリンク。ところが、ニュートリション・
ビジネス・ジャーナル誌によると、90%近くはダイエットの目的で飲まれてい
るという。2001年の売上げは23億ドルで、Unilever社のSlimFastが圧倒的な
シェアを誇っている。
代替ミールはいずれも低脂肪・低カロリーで、ビタミン、ミネラルといった
健康に必要な栄養素入り。典型的な代替ミール・ダイエット法は、朝、昼、夜
の三食のうち二食、そしておやつに、それぞれ一本ずつ飲んで、残りの一食は、
できるだけ低脂肪・低カロリーでバランスのとれた普通の食事をする。メリット
は、簡単なのと体に必要な栄養素がしっかり摂れること。ただ、フレーバーが
豊富とはいえ、飲み飽きるという難点がある。短期間でやせる効果は大きいが、
体重を維持するため長期的に続けるのはむずかしいという指摘もある。
ダイエット医薬品では「ゼニカル」が独走状態
肥満で起こる病気の治療にかかる医療費は年間、約1千億ドルで、アメリカの
総医療費の7%を占める。そして、ダイエットを助ける処方箋薬の売り上げは
年間、約5億1000万ドル。1998年にRoche社から発売されたゼニカルの売り上げ
が、肥満治療市場の半分近くを占めており、発売以来の独走状態が続いている。
ほかには、メリディア、Tenuate、Dospan、Sanorex、Mazanor、Bontirl、
Plegineといった医薬品が食欲抑制剤として処方されている。
しかし、いずれも副作用があるため、連邦食品・医薬品局(FDA)は短期間に
限り服用を認めている。