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【 遺伝子解明で疾病予防なるか、世界で壮大なプロジェクトが進行 】

ヒトの遺伝子を知ることによって病気を予防し、死亡率を低下させる――決して単なる 夢物語ではない。既に世界の多くの科学者によりこうしたプロジェクトが進行している。 「遺伝子解明による未病プログラム」、人類の壮大な夢の幕が今切って落とされようと している。はたして、現代先端医療は未病システムを創出できるのか。

2003年をめどに人間の全遺伝子の解明をめざす

「ヒトの体の働きを知り健康と幸福に役立てるため」にヒトの遺伝情報を全部解明しよ うという国際的計画、「ヒトゲノム・プロジェクト」が進行している。同計画は1988年に米 国を中心に人間の全遺伝情報の解明を目的とした国際的なプロジェクトで、全世界で 200億円(年間)ともいえる予算が投じられているという。

情報伝達を司る遺伝子DNAは、デアニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類の単位が つながったもので、ゲノムとは、このこれら4種類の単位でつづられた情報をいう。同計 画は2003年までに、最終的に30億というDNAの全文字配列の決定を行うことを目的に している。現在行われているシークエンスという作業(配列決定)は、2001年あたりの 完成が予測されている。

肥満をはじめ、さまざまな疾病の罹患率が予測

同計画の完成・成功によって、遺伝子が様々な疾患の発症にどう作用するのか、その 原因、プロセス解明に道がつき、疾患の治癒、予防に対策が立てられることなどが期待 されている。疾患と遺伝子との関連性を解き明かす研究は既に各所で行われ、遺伝子 がそれに果たす役割が証明され始めている。

例えば、古いところでいうとダウン症候群と染色体との関連性。また、最近ではヒトの肥 満の一要因に遺伝子が挙げられている。Nature Genetics(1998年11月号)に掲載された フランスの研究では、肥満を示すメンバーのいる158家族のゲノムを調べたところ、染色 体10上に確認された肥満遺伝子ob1 geneが肥満と多いに関連性を示すことが分かった。

研究では、ob1 geneが存在すると肥満の危険率が30%あるとしている。また、染色体2 並びに5に確認されたものはホルモンのleptin割合に影響を与えることを指摘している。 同ホルモンは脂肪細胞で作られ食欲やエネルギー消耗をコントロールするという。

同じ食事内容でも遺伝子情報により反応に差

がんもストレス、環境などの危険要因が遺伝子の突然変異などを誘発させることは既 に広く知られているが、特に明確に関連性を示す遺伝子が確認されているのが乳がん と卵巣がん。BRCA(BRはBreast<胸>を表し、CAはCancer<がん>を意味する)1と BRCA2が確認され、乳がん、卵巣がんの罹患に90%関連あることが指摘されている。こ の2つの突然変異ががん発症に役割を示すが、これまでに数百種の変異が報告され ているという。

1998年2月に開催されたAmerican Heart AssociationのAmerican Association for the Advancement of Sciences(AAAS)シンポジウムでは、「Gene-Diet Interactions in Coronary Heart Disease」と題し飽和脂肪のコレステロールと遺伝子と の相互関係がアテローム性動脈硬化に与える影響について話し合われた。同シンポジ ウムで発表された研究では、食事に反応する個人の多様性を決定する際に遺伝子が 与える大きな影響にスポットが当てられている。

研究者は「あるグループに飽和脂肪やコレステロールの少ない食事を全く同じように与え ても、被験者のLDL(「悪玉」コレステロール)は様々な値を示す」ことを指摘している。 この中でテーマにapoE4(アポタンパク体E4)を取り上げた研究者によると、adoE4を持 つ者は高いコレステロール値を示す傾向にあり、結果的に心臓病やアルツハイマー疾 患の危険性が高くなるという。

さらに、別の研究ではアテローム性動脈硬化に対する耐性が高いといわれるマウスだが apoliprotein E(ApoE)が欠損すると、ヒトに見られると同じようなアテローム性動脈硬化 性病変を起こし、こうした病変はコレステロールや脂肪が高いエサを与えられるほど悪化 することを指摘した。

遺伝子と「食」との関連性について、多くの研究者が研究テーマに

デンマークで行われた研究でも、心臓病に罹患していない1万人と心臓病患者900人を 比較したところ、女性の8人に1人がapoE32と呼ばれる遺伝子を持っていることが分かっ た。この遺伝子は心臓病と相関関係にあることが指摘されており、心臓病の危険性を62 %減少させるという。

一方、男性の4人に1人からはapoE43という遺伝子が見つかっている。 これは反対に心臓病の危険性を35%増加させるともいわれる。ApoE遺伝子は血中脂質 の脂肪に関係するプロテインを作ると考えられている。

遺伝子と食との関連性についても多くの研究者グループがその研究テーマに取り上げて いる。Wake Forest University Baptist Medical Center研究者グループは、遺伝子と食 との相互関係はヒトのコレステロール吸収に影響を与えると指摘している。

例えば、apo-A-IV-2(変種遺伝子の科学名)遺伝子を持つ被験者は、「一般被験者」よりコレス テロールの吸収が低いという。New England Journal of Medicineに掲載された研究では Weinbergなどの地域で医学生23人に対し1日卵4個を食べさせた。

医学生は11人が「変種」遺伝子を持ち、12人が「一般的」遺伝子を持っていた。「一般的」遺伝子グループの 総コレステロールは3週間で22ポイント上昇。LDL(「悪玉」コレステロール)値は19ポイン ト上昇した。一方、「変種」遺伝子グループでは、総コレステロール値が5ポイント、LDLは 2ポイント上昇しただけだったという。

将来、個人の遺伝子カルテを基に処方箋も

遺伝子によって「食」に対する反応の仕方が変わってくることが指摘されるように、一般的 には低脂肪ダイエットが心臓病予防に効果があると考えられるが、健康なヒトが非常に 少ない脂肪食のダイエットを続けると、心臓病予防の効果が少ない、あるいは反対に有害 となる場合も出てくることも予測されることを研究者は明らかにしている。遺伝子と「食」と の関連を探る研究は今後益々盛んになると思われ、個人の遺伝子カルテを基にダイエ ットの処方箋が書かれるなどという日はそう遠くないかもしれない。

こうした遺伝子への関心は高まる一方だが、それに反して大半の医療関係者の遺伝子 に関する知識がお粗末なものであることを専門家は憂慮する。プライマリ・ケアを行う医 師約600人を対象に行ったアンケート調査によると、臨床的遺伝子サービスの有無につ いて分からないと答えた割合は20%に上った。また、多くが患者の遺伝子テストの必要 性を感じておらず、患者に紹介している医師は少ないという。研究室と医療現場との足 並みが揃っていないことを懸念する専門家も多い。

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