西洋医療で疾病はもう癒せないのか。米国では西洋医療に替わる医療(代替医療)を
求める動きが急速に高まっている。食品の機能性による栄養療法を筆頭に心理療法、
催眠療法などホリスティック(全体的)な観点から疾病と向きあう傾向が強まっている。
日本でもここ数年、心による”癒し”やアーユルヴェーダによる自然派志向による疾病
改善が話題になるなど西洋医療離れが静かに進行しつつある。
一部で素人によるホメオパシー療法に疑問の声
ホメオパシー療法がアメリカで50年ぶりの復活をみせている。病気に抵抗する身体の
反応を引き出すことによって効果をあげるといわれる療法。1820年代にヨーロッパの
医者により初めてアメリカに渡り、確かな手応えで広まっていったものの、西洋医学の
弾圧で衰退の一途をたどるという痛い過去がある。それが、医療の主流となった西洋
医学の限界にぶつかった今、200年の伝統をもつホメオパシー療法が正当なものとし
て見直されはじめた。
その効き目と医療費の節約にもつながると、代替医療への関心の高まりにのってホメ
オパシー療法を利用する医療関係者が増えつつある。医療施設を訪れるのは、若く、
主治医に慢性疾患を診断された患者が多いという。内科医、歯医者、精神科医、カイ
ロプラクター、看護婦といった何らかの医療ライセンス取得者が利用しているほか、動
物にも効果ありと治療に取り入れている獣医も少なくない。
しかし、医療ライセンスを持たない医学上の素人でも、ホメオパシーを熟知して治療に
あたっている人もいる。この素人による医療行為の合法性が今のところまだ明確にされ
ていない。
というのもホメオパシーに使われる薬は食品・医薬品局(FDA)規定の「薬」
として扱われるため、「内科医または医療ライセンスを持った者しか患者に薬を処方し
たりすすめたりできないはず」という素人の医療行為に疑問の声もあがっている。州に
よって状況は異なるが、アリゾナ、コネチカット、ネバダの3州では各州ホメオパシーラ
イセンス委員会が発行するライセンス取得が法律で義務付けられている。
ここ数年のホメオパシー薬の売り上げは25〜50%の伸び
一方、薬についていえば、大半が処方箋なしで購入できるため、医療の知識のない
一般人でも簡単に手に入れることができる。一般的に売れているのは健康食品店に
並ぶ「フォーミュラ」「コンビネーションメディシン」と呼ばれるホメオパシー薬。利用頻
度の高い物質3〜8種類を調合し、その中のどれかが症状に効くというものだ。容易
に入手でき、安全で副作用もなく、よく効くことから「ユーザーフレンドリー」となかなか
の評判で、人気はうなぎのぼり。市場調査によると、ここ数年のホメオパシー薬売り上
げは年に25%から50%の伸びを示しているという。
ホメオパシー医療をとりいれた内科医は、通常の医者に比べ患者に接する時間は長
いものの、検査そして薬の処方の回数が少ないことから、ホメオパシー療法導入によ
る医療費削減への期待は大きい。
天然のものを希釈、量が少ないほど効果
200年ほど前、ドイツのザムエル・ヘーネマン医師によって作られたホメオパシー療法。
健常者に特定の症状を引き起こす物質には、それと似た症状の患者を治す効果があ
るという考えから、症状を起こす物質をすでにその症状のある患者に与えることで、病
気と戦おうとする体の自然治癒力をさらに高めて治療するというものだ。治療には、生
薬、鉱物など自然のものを何度も何度も希釈して作った錠剤や液状の薬を使う。量の
少ないほど効果ありといわれている。
たとえば、かぜを例にあげてみよう。かぜをひいて熱が出るのは、からだが病気と戦っ
ているからだ。そこで熱を無理に下げれば、体は病気と戦うのをやめてしまう。ホメオパ
シー療法では、熱を適度にあげることでもともと人間に備わった自然の治癒力を高めて
病気をやっつける。ホメオパシー薬の投与で病気に抵抗する体の反応を引き出し治
療効果をあげるという仕組み。
患者の病歴や現状を踏まえて処方
ホメオパシー療法が、「逆毒療法」「同種療法」などと呼ばれているのはこのためだ。し
かし、こういった療法は西洋医学にも使われている。ワクチンやアレルギーの減感作療
法も一種の同種療法といえるだろう。
効用についていえば、あらゆる病気の症状に効くといわれているが、中でも、アレルギ
ー、消化不良といった慢性、再発性の病気、西洋医学では原因不明と診断された症
状に効き目があるという。西洋医学では症状によって誰にでも同じ治療をほどこすが、
ホメオパシー医師は、患者の過去の病歴や現在の症状を踏まえ、それぞれにあった
独自の薬を処方する点も主流医学と大きく異なる。
ホメオパシー含む代替医療医療を29の保険会社がカバー
ホメオパシー療法に限らず、自然治癒力を高めることで病気を治すという代替医療を保
険プランに組み込む保険会社も増えてきている。医療関係者の利用率が高まり、代替
医療を試したいという患者がどんどん増えているからだ。98年のスタンフォード大学の
統計によれば、29の保険会社およびHMO(会員制の健康管理機関)で代替医療をカ
バーしている。
たとえば、「American Western Life Insurance Wellness Plan」では、65歳以下を対象
に主にカリフォルニア、ユタ、コロラドなどで、カイロプラクティス、ホメオパシー、マッサー
ジ、栄養療法などをカバーする。
最近の話題では、8月から「ブルークロス・アンド・ブル
ーシールド」のノースキャロライナが、代替医療をカバーする保険プログラム「Alt Med
Blue」を開始する。これにより、同保険に加入している100万人近くが、保険を使ってホ
メオパシー、アロマセラピーといった代替医療を利用できる。同社関係者は「医療の選
択肢を代替医療にも広げて欲しいという消費者の要望に答えたかたち」と話している。