現在、米国ではハーブ・サプリメントに対する逆風が吹いている。米国における90年代半ばからの代替医療の台頭は、ここにきて米医療界から有効性の徹底検証という痛烈な洗礼を受け、きりもみ状態へと陥っている。換言すれば、西洋医療と併用すべく代替医療を認知しはじめたともいえ、徹底した科学的検証の中で、より有効な代替医療を探ろうとする前向きな姿勢ととらえてもいいかも知れない。はたして、ハーブ代替医療の巻き返しなるか。米国代替医療が第2幕へと向かう中、米国でハーブ旋風を巻き起こすきっかけを作ったアンドリュー・ワイル博士の近況について報告する。
アンドリュー・ワイル博士、「統合医療の旗手」として、全米の注目浴びる
アンドリュー・ワイル博士は、アリゾナ州ツーソンの名士として誰一人知らないものはいない、今や「ヒーリングの新旗手」として全米の注目を浴びている人物である。代替治療を米国の主流医学へと導いた立役者の一人であるワイル医師が提唱する理論は「Integrative Medicine(統合医療)」。体が持つ自然な治癒力を高めるため、代替療法と一般医学とをうまく融合させようという目的を持つ。
具体的には、
1)病気や治療よりむしろ人の健康全般に目を向け、
2)不調の診断や治療に関し、精神、感情状態、身体などを丸ごと一つにした患者全体を考慮し、
3)あらゆる角度、つまり食生活、運動、ストレス、睡眠の質、人との関係、仕事、ダイエタリーサプリメント、ハーブ、その他の療法使用といったものを全て治療に組み入れ、患者と医師との信頼関係を築き、
4)従来の一般医学では手におえない患者の負担にならない、簡単で、安価な、複雑ではない治療法を模索する。
「現在の医療体制は急進的な変化が必要」(ワイル博士)
1942年フィラデルフィアに生まれたワイル博士は、1964年、ハーバード大学の植物学で学士号、1968年同大学で医学博士号を取得した。サンフランシスコの病院でインターン終了後、米国立衛生研究所(NIH)に1年勤務し、その後、初めての著書「The Natural Mind」を出版した。1971−75年、Fellow of the Institute of Current World Affairsの一員として南米、アフリカを旅し、この間に異文化に伝わる薬物、薬草、民間療法に関する資料を集めて回る。また、1984年まで、ハーバード植物博物館研究スタッフの一員として尽力し、様々な薬草の研究を行った。
Alternative Therapies'01年7/8月号が掲載したワイル博士との対談によると、ワイル博士はアリゾナを基点に、ヘルスケア・システムの移行という壮大な未来図を描いているが、現在の医療体制は急進的な変化が必要だと述べ、その第一歩としてネットワーク作りを始めたという。
現在、Consortium of Academic Health Centers for Integrative Medicineを設立したばかりで、今のところデューク、ハーバード、アリゾナ、ミネソタ、スタンフォードの各大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校など11校がメンバーとして名を連ねているという。さらに、コーネル、コロンビア大学が参加を予定している。
「統合医療」に脅威抱く既存勢力からの抵抗
ワイル博士が目指すところは医療教育の変革だが、アリゾナ大学では、家庭医学や専門医学学習期間を終了した者に特別研究員資格を1年だけ与えるプログラムをスタートさせた。そこでは、一般医学と代替療法の長所を組み合わせるやり方や自然治癒、マインド・アンド・ボディの相互作用などを学んでいくという。
だが、ワイル博士の考え方を誰もが認め、支援を惜しまないというわけではない。一般医学との摩擦・軋轢は数限りなくあるという。例えば、がんセンターからの横やりが大きな障害になったことがある。がんセンターは、「統合医療」を大きな脅威とみなし、「化学療法を否定し、がん患者をハーブ漬けにしようとしている」という噂を巻いたと説明する。
「老化」が次なるテーマ
そうした横やりだけではなく、資金難も障害の一つ。ロビー活動によって実現した政府からの援助を除けば、プログラムは全て民間からの資金援助や寄付でまかなわれているという。対談の中で、ワイル博士が明らかにした次の著書のテーマは老化。特に、ライフスタイルの一部として老化を捕らえ、健康的に年を取ることを取り上げていきたいと述べている。「何千年も生きている樹木、年代を経たワインやチーズ。私たちには古いものを慈しむ心がある。年を取ると頑固さを身に付ける一方で、まろやかさや滑らかさも身に付ける。さらに、高齢者が社会との繋がりを続けて持ちながら幸せな生活を送る、そうした面での老化を考えたい」とも話している。
米国だけでなく世界にワイル博士のハーブ療法が浸透
ワイル博士は現在は、アリゾナ大学のMedicine of the College of MedicineでDivision of Social Perspectivesのアソシエート・ディレクターを務め、Center for Integrative Medicine and the Beneficial Plant Instituteの代表者でもある。
そうした責任職を務める傍ら、「The Marriage of the Sun and Moon」「Chocolate to Morphine」「Health and Healing」、「Natural Health」「Natural Medicine」などの著書を発表。「Spontaneous Healing」、「8 weeks to Optimum Health」の2作は大ヒットとなり、全世界の注目を集めている。
また、ウェブサイト「ask Dr. Weil(www.drweil.com)」は月に200万アクセスを超える人気で、世界中にワイル博士のハーブ療法が浸透しつつある。ハーブ療法およびワイル博士の近況についてはここからも得られる。
心と身体の相関を認知した「統合医療」の構築へ
世界の各地を旅して学んだ民間療法が、現在のワイル博士の原点だといえるだろう。西洋医学はこれまで、依然として身体と精神の因果関係を、一部を除いて認めないでいる。治療も身体や器官、そして疾患の症状に対して行われるのであり、マインドやスピリチュアルは別物だと扱われる。
2000年3月にBookPageが行った対談で、ワイル医師は「マインド・アンド・ボディの関係を視野に入れながら、身体の持つ自然治癒力を高めていく過程」と提唱し、「統合医療」の意味について説明をした。
さらに、「現在のハーブやビタミン療法を始めとする代替療法の普及率には目を見張るものがあり、それに伴って患者や消費者は多くのことを知りたがっている。だが、今の医療関係者の中には代替療法に対する深い知識を持って説明できる者はほんの一握りというお粗末な現状。医療従事者への教育・指導は優先課題となる」と述べている。