ハーブやミネラルなどのサプリメントを妊娠中に摂取しても大丈夫なのか―。
薬品との相互作用はどうなのか--。米国で代替医療(西洋医療以外の医療)が
ブームになり、ハーブやサプリメント(栄養補助食品)市場が2ケタ台で伸張する中、
医療関係者や消費者団体の間でそんな疑問が浮上している。今回、妊娠中のハ
ーブやサプリメント摂取について物議を醸した米国食品・医薬品局(FDA)のある
決定と、問題視されているハーブやサプリメントについて取り上げた。
サプリメントによる「つわり」や「足の痛み」など妊娠中の症状緩和表示に医療関係者や消費者団体が猛反発
昨年1月、FDA(米国食品医薬品局)はサプリメント(栄養補助食品)に、妊娠中の
「つわり」と「足の痛み」についての症状緩和表示を許可した。妊娠による「つわり」
と「足の痛み」は病気ではなく、あくまで妊婦の自然な症状である、とみなし
たためだ。
1994年に成立したDSHEA(栄養補助食品教育法)は、サプリメントの効用表示が
病気の治療効果をうたったものでなければ許可を与えた。つまり、がんなどの病気
の治療に効果があるという表示はダメだめだが、酸化を防止するなどの表示はOK。
これにのっとり、FDAは、妊娠中の「つわり」や「足の痛み」は病気ではないため、
妊娠期におけるそうした症状の緩和表示は問題ないと、メーカーに言い渡した。
この通達に、医療関係者や消費者団体が猛反対した。特にハーブについては
流産のリスクを高めるものや、胎児への安全性がまだ確認されていないものが
ある。そのため、「無責任な表示は、第二のサリドマイド問題を引き起こす危険があ
る」。また、「つわりや足の痛みは、何か別の疾患による可能性もある。妊娠中に何
か摂取する時は、医師に必ず相談すべきである」とした。
ハーブやサプリメントで妊婦や胎児への影響を調べたものは少なく、表示は慎重に行うべき
こうした猛烈な反発を受けたため、FDAは即座に軌道を修正。メーカーに対し、
表示の取り止めを求めたという経緯がある。
1950年代に、西ドイツの製薬会社ヘミー・グリュネンタール社によって開発された
鎮静剤・睡眠薬「サリドマイド剤」を、妊娠中の母親が服用し、世界中で四肢に
欠損のあるサリドマイド児が生まれ、国際的な社会問題へと発展したことはいま
だに深い傷となって人々の記憶に残っている。
ハーブやサプリメントの妊婦に対する安全性に関するデータはまだ少ない。
表示を認めたのはあまりにも安易であるとの判断から、FDAは即座に通達を撤回し
たと推測できる。
セントジョーンズワートはピルの効き目を半減させる
米国で90年代に入って代替医療がブームになる中、医療関係者の間からハーブ
やサプリメントと薬剤との相互作用を検証すべきとする声が高まっているが、中でも、
妊娠中の使用については、最も注意を払うべきとされている。
先頃、米国でもはや定番となった天然抗鬱剤のセントジョーンズウォートが、避妊
ピルの効き目を落としている可能性があると公表された。とくに人体に重大
な健康被害を及ぼすということではないが、薬剤との相互作用に神経質になりつつ
米国民の一端を示すものといえよう。
どういうことかというと、妊娠中に、ジョーンズウォートを服用すると、ピルを飲んで
いるにもかかわらず妊娠するケースがあるという。
科学雑誌「ランセント」もこれについて触れているが、セントジョーンズウォートを
妊娠中に服用すると、ピルの効き目が50%も低くなるという。これに関してFDAは、
同サプリメントに肝臓が薬を分解する際のスピードを早める働きがあるため、薬の効
果を半減させている可能性があると分析。
ただし、ピルとセントジョーンズワォートの
相互作用の影響は人によって異なるとしている。こうしたこともあり、医療関係者らは、
セントジョンズワートをピルと併用する際は必ず医師に相談するよう呼びかけている。
人気1ハーブのエキナセア、妊娠時の服用は問題なし
米国で、セントジョンズワートと人気を二分するハーブにエキナセア(免疫系を強
化)があるが、これについては妊娠中の服用も問題ないとする研究報告が出てい
る(Archives of Internal Medicine '00-11/13日号)。
カナダ・トロントの小児病院のチームが妊娠中にエキナセアを服用した200人の妊婦
と服用していない妊婦について経過追跡を行ったところ、死産、流産、重度および
軽度奇形の発生率において二者の間に統計的な相違は認められなかったという。
ただし、これに関してはまだデータが乏しく、専門家は「”自然”イコール”安全”では
ない。ハーブ・サプリメントの服用を積極的に推奨することはしない」とのコメントも。
妊娠中に避けるべきハーブ
妊娠中の服用でとくに赤信号が出ているのはハーブの類。
例えば、昨年11月に米国で開催されたAmerican Academy of Pediatrics会合で行われ
た報告によると、fenugreek(コロハ)とコンフリーの2つのハーブが乳児に健康障害を起
こす危険性があると指摘されている。
コロハは母乳の出をよくするハーブとして利用されているが、研究者によるとそれを証明
する結果は報告されていないという。反対に、母親の血圧を上げたり、乳児の下痢を引き
起こす危険性があるとしている。また、コンフリーは乳首の乾燥やひび割れを防ぐために、
乳首をこれで摩擦すると良いといわれるが、乳児の口に入ると、肝臓静脈閉塞性疾患を
起こす危険性が指摘され、カナダではコンフリー使用を禁止しているという。
またアントラキン緩下剤として働くハーブは、筋肉をリラックスさせる働きがあることから、
子宮の筋肉組織にも影響し流産のリスクが高くなる恐れがある。子宮を刺激したり、月経
を促進するハーブも避けるべきだ。特に問題のないハーブでも過剰摂取は母体や胎児
に悪影響をおよぼす可能性があるため、専門家に相談してからの服用が望ましいといわ
れている。
○避けるべきといわれるハーブリスト
〔アントラキノン緩下剤効果のあるハーブ〕-------------------------------
Aloe
American Mandrake (Podophyllum peltatum)
Buckthorn(Rhamnus cathartica)
Cascara Sagrada(Rhamnus purshiana)
Docks(Rumex crispus)
Meadow Saffron(Colchicum autumnale)
Senna(cassia acutifolia)
〔子宮を刺激し流産の危険を高める恐れのあるハーブ〕----------------------
Black Cohosh(Cimicifuga racemosa)
Blue Cohosh (Caulophyllum thalictroides) Bloodroot(Sanguinaria canadensis)
Calamus(Acorus calamus)
Cayenne(Capsicum frutescens)
Fennel(Foeniculum vulgare)
Feverfew(Chrysanthemum parthenium)
Flax Seed(Linum usitatissimum)
Goldenseal(Hydrastic canadensis)
Lady's Mantle(Alchemilla vulgaris)
Licorice(Glycyrrhiza glabra)
Male Fern(Dryopteris filix-mas)
Mayapple(Podophyllum peltatum)
Mistletoe(Viscum album)
Passionflower(Passiflora incarnata)
Pennyroyal(Mentha pulegium)
Periwinkle(Vinca rosea)
Poke Root(Phytolacca americana)
Sage(Salvia officinalis)
Tansy(Tanacetum vulgare)
Thuja(Thuja occidentalis)
Thyme(Thymus vulgaris)
Wild Cherry(Prunus serotina)
Wormwood(Artemisia spp.)
〔月経促進するハーブ〕----------------------------------------------------
Cotton-root Bark (Gossypium herbaceum) Myrrh(Commiphora myrrha)
Rue(Ruta graveolens)
Yarrow(Achillea millefolium)
また、米国ハーブ商品協会(AHPA)が、数多くの研究データをもとにまとめ、発行した
「ボタニカル・セーフティー・ハンドブック」には、授乳期には服用を避けるべきハーブ
が掲載されている。以下のハーブが挙げられている。
Alkanet comfrey
Aloe vera elecampane
Aloes ephedra
Basil garlic
Black cohosh Joe Pye
Bladderwrack licorice
Borage male fern
Bugleweed purging buckthorn
Cascara sagrada senna
Chinese rhubarb stillingia
Coltsfoot wormwood
■妊娠時の服薬による胎児奇形に葉酸が奏効
またビタミンについていうと、ビタミンAの過剰摂取がよく知られるところ。1日に1600
(RE)以上の摂取は、障害を持った子供の生まれる可能性が高くなるといわれている。
逆に妊娠中に摂るべきとされているのが葉酸。
妊娠適齢期の女性あるいは妊婦は1日400マイクログラムの葉酸を摂ることで、胎児の
奇形出産を防ぐことができるとされ、米国では穀類などにも添加令が施行されるなど
国をあげて葉酸摂取が奨励されている。
葉酸に関する最近の研究報告では、妊娠中の投薬の際にも葉酸摂取で胎児の奇形
化が防衛できるとしている(The New England Journal of Medicine'00-11月30日号)
妊婦に癇癪、感染症、高血圧といった重い病気がある場合、薬を投与せざるを
得ないが、これらの薬は母体の葉酸量を減少させ、胎児奇形の原因となるという。
米ボストン大学の研究グループがこれについて、統計を分析したが、妊娠中に薬
を一種ないし数種を服用し、葉酸を摂取しなかったグループと葉酸を摂取したグルー
プに比べたところ、前者のほうが心臓に欠陥のある胎児の出生率が8倍、兎口の胎児
の出生率が5倍ほど高いことが明らかになったという。
■妊娠中のカルシウム不足、鉛の血中への流出を促進
また、健全な胎児の出産のために、妊娠中のカルシウム摂取には留意する必要がある
とされる。
人体中の鉛の95%は骨組織内に存在するが、カルシウムの不足によって防壁がなくな
ることにより、妊娠中期以降、鉛の血管へ流出を引き起こし、胎児と母体の中枢神経系
や心臓血管に問題が生じる原因となる。
また、亜鉛不足は乳幼児の発育の遅れに大き関与することが報告されている(Lancet誌
'00/6・10日号)。
また、ジョンズ・ホプキンス大学の研究グループも、妊娠中に亜鉛を摂ると、新生児の免疫
システムに好影響を与え、感染症の危険性が低下すると報告している
(ExperimentalBiology学会)。