HOME > 米国代替医療への道・TOP

【 米代替医療の牽引役、ハーブ療法の旗手・ワイル博士 】

西洋医療で疾病はもう癒せないのか。米国では西洋医療に替わる医療(代替医療)を 求める動きが急速に高まっている。食品の機能性による栄養療法を筆頭に心理療法、 催眠療法などホリスティック(全体的)な観点から疾病と向きあう傾向が強まってい る。日本でもここ数年、心による”癒し”やアーユルヴェーダによる自然派志向によ る疾病改善が話題になるなど西洋医療離れが静かに進行しつつある。 今回は米国の代替医療の牽引役でもあるハーブ療法の権威・アンドリュー・ワイル博士の 業績など報告する。

米国ハーブ、安全性の臨床研究は不十分

現代の西洋医療現場において関心が高まる代替治療だが、その傾向はがん治療分野に も影響を及ぼしつつある。代替治療の中でもハーブ治療では、特にその成分の持つ 「抗腫瘍性」あるいは「抗炎症性」に関心が集まっている。ヨーロッパでは古くから ハーブを民間療法に使用してきたが、特にドイツでの同分野の研究は著しく進歩して おり、すでに薬剤としての利用が認められているハーブも多い。

ハーブ分野の入り口に立ったばかりの米国は研究面でドイツに比べかなり立ち遅れてはいるが、それでも 最近様々な関係機関、各大学研究室の研究プロジェクトに取り上げられるようになっ た。ただ、どんながんにおいても治療剤として有効性を示すハーブ成分は特定されて おらず、安全性を証明する信頼のおける臨床研究も行われていないのが現状だ。これ まで実験室で行われた数件の研究で、有効性が期待できると指摘されたハーブは次の 通り。

@ アザミ属(thistle family)/突然変異した細胞ががんの要因となるが、この ハーブの成分、arctigeninは突然変異を起こさせない特性を持つ。

A ゴボウ(burdock)/同じくarctigeninを成分に持つ。実験室での試験では、細胞 の突然変異を最小限に抑えることが指摘されている。

B ムラサキツメクサ(red clover)/成分のgenisteinが抗がん作用を行う。ただ、 tamoxifen治療を受けている乳がん患者は、同薬剤の効果を消してしまうためこの ハーブを使用しないよう専門家は忠告している。

C 朝鮮人参(ginseng)/米国内での研究では確証が得られていないが、韓国で行わ れた分析研究では、同ハーブを摂取する回数が多いほどがんの危険性が低下すること を指摘している。この他有用性が期待されているものとして、ガーリック、キャッツ クロー、ミルラ(没葉樹=口内の潰瘍に利用される)、ローズマリーなどの名が挙 がっている。

前立腺がんや乳がんへの作用で緑茶の有効性が注目

また、25年の間に4万種の中から11万4千植物の試験を行っている米国立がん研究所 をはじめとして、現在莫大な数の植物エキスについての研究が各研究機関で進行中。 この中には――

@podophyllum(メギ科)/2千年以上前から中国で使用されているもの。 Podophyllumhexandrum(ヒマラヤハッカクレン)には抗腫瘍の特性を持つ成分が含ま れる。主要成分であるエトポシドは小細胞肺がんの治療として、また別の成分テニポ シドは小児がんに有効とされている。

ABittersweet(ツルナス)/特にジュースが腫瘍やこぶに有効的として使用されてきた。 成分のsteroidal alkaloid glycoside[beta]-solamarineが腫瘍を抑制すると考えられて いる。

Bcetraria(イスランドゴケ)、Usnea(サルオガセ属)/双方ともに抗バクテリア、抗真菌 性また最近指摘された抗腫瘍性を持つウスニン酸が含まれる――などがある。

また最近では、ハーブの一部として緑茶の有効性に注目が集まっている。Mayo Clinicの研究者グループが行った緑茶の前立腺がんへの効果を調べる研究では、成分 のEGCGががん細胞の増殖を抑えるだけでなく、アポトーシスと呼ばれる「プログラム された細胞死」を生み出すことも指摘された。

ただ、緑茶の成分はかなり複雑である ことから、さらに別の成分についても研究が進められている。また、乳がんに対する 緑茶のポリフェノール効果に関する研究も始まっている。

化学療法とハーブの併用で治療効果を上げる 

がん治療へのハーブ使用に懐疑的な現代医療現場にも、最近では化学療法や放射線治 療との併用における有用性を認める声が上がってきている。化学療法と放射線治療が 一般的がん治療の二本柱になっているが、副作用の重いことは周知の事実。これは、 化学療法ががん細胞などの異常細胞を殺そうとする時、同時に正常な細胞にまでダ メージを与えてしまい、吐き気、嘔吐、脱毛、疲労・脱力感などの症状として現れ るものだ。

このようなひどい副作用のため化学療法に挫折してしまう患者は多い。 ハーブ使用支持派は「ハーブの持つ力が弱まった免疫システムを回復させ体の機能を 高めることで、化学療法の効果を倍加させる」と強調する。また、病気で増大するス トレスや痛みを緩和する作用もハーブの重要な役割であることを、多くの患者がハー ブ使用を通して指摘している。

ハーブ使用時は医療関係者との情報交換が必要

例えば、吐き気を抑えるためのジンジャー、エネルギーの回復に朝鮮人参、そしてほて りの緩和に大豆などがよく使われる。また、昨年カリフォルニア大学サンフランシスコ校 では、60人の乳がん患者を対象に化学療法中のハーブ効力を調べる研究を行った。

この研究で、患者は最初の化学療法を受ける2週間前から、21種類のハーブをミックス したものと偽薬のどちらかを投与された。この結果、患者の3分の2がハーブ投与の有 効性を認める回答を行ったという。

このようにハーブの有効性は認められつつあるが、ハーブ一つ一つの安全性に対する 的確な研究が不充分なため、専門家は必ず使用前に医師に相談することを警告する。

スタンフォード大学の専門家が「残念なことに患者の3分の2が医師に告げずにハーブ を使用している」と指摘するように、医師に情報が渡らなかったため化学療法との相 乗作用で死亡した例も見られる。このような事故を防止するために、医療関係者に対 しても患者から十分な情報を引き出すこととハーブ医療に対する知識を高めることを 忠告している。

1ケ月で250万アクセス、ハーブ研究の権威・ワイル博士の人気高まる

こうしたハーブによる代替治療を支援、またそればかりでなく代替医療と現代医療を融 合させたのがアンドリュー・ワイル博士だ。Harvard Medical Schoolで植物の権威、 Richard Schultes博士の元で民族植物学を勉強。卒業後、米国立精神衛生研究所に勤 務した。それまでも、世界中を旅行し、ハーブ療法を始めとする様々な民間医療を見 て回る。90年代に入り現代医療の様々な問題点が浮上し始めるに伴って、ワイル博士 の提唱する「人の体の持つ自己治癒力」に注目が集まり人気は高まる一方。

これまでに、「The Natural Mind」(1972)「The Marriage of the Sun and the Moon」 (1980)「Health and Healing Spontaneous Healing」(1995)など7冊の本を刊 行、最新刊「8 Weeks to Optimum Health」は1年以上にわたってベストセラーとなっ ている。その他、癒しの音楽を集めたCDなども出している。また、ワイル博士のホー ムページは1ヶ月250万のアクセスを示すほど大盛況だ。さらに、1997年には「最も影 響を与えた人物25人」にも選ばれている。

一方で、現代西洋医療の強い風当たり

同博士が編み出し人気を上げている「8 Weeks Program」の概要は、健康の最高の状 態を一歩一歩作っていこうというもの。例えば、第1週はまず「食品棚や冷蔵庫の整 理」から始めることを薦めている――期間の過ぎたシーズニングや飽和脂肪を使った クッキーやクラッカーなどの食品は捨てる。

その代り、ゴマ油やオリーブオイルと いった脂肪を買いこむ――といった具合。また、栄養補助剤についても第1週目はビ タミンCの摂取から入ることを薦めている。朝晩の2回、食事と一緒に1000mgから 2000mgが博士の薦める量。このように2、3週と無理なく体を作り変えていくというプ ログラム構成になっている。

一方で、やはり現代医療からの風当たりもまだ強い。最近、The Massachusetts College of Pharmacyはワイル博士に名誉博士号を贈ったが、それに対しNew England Journal of Medicine誌編集長は「不適切」と評している。

また、同名誉編集長の Arnold S. Relman博士も「代替治療と現代治療の融合があまりにもてはやされるのも 危険。融合が不適切な場合もある。多くの代替療法はいまだその安全性で的確な研究 がなされているわけではない」と警告している。

ヘルスネットメディア

Copyright(C)GRAPHIC ARTS CO.,LTD. All rights reserved.