米国では、4人に1人ががんで死亡しているといわれ、心臓病に続いて死亡原因の2位についている。1990年以来がんによる死亡者は約500万人を数え、1999年では、新たに122万1千800人ががんと診断、現在、1日に1500人以上ががんで死亡する計算になる。近年、日本でも特に若者の間で食の欧米化が急速に進んでいるため、将来がん罹患においても米国と同様の傾向が予想される。
近年、米国ではがんの死亡率が低下傾向に
現在、がんは米国の死亡原因では心臓病に続いて第2位。ただ、死亡率は1990年から95年の間に2.6%低下している。特に男性の肺がん、結腸・直腸がん、前立腺がん、女性の乳がん、結腸・直腸がんなどの減少が目立っている。また、生存率に関していうと、1900年代始めでは長期的な生存が殆ど望めなかったが、30年代に入ると治療後5年までで4人に1人が生存している。さらに最近の数字では、5年で49万1千400人、つまり10人に4人が生存している計算になる。
The National Cancer Instituteの推定によると、がんに対する全体的な医療費は約1千100億ドルにのぼる。こうした数字の推移は、現代治療の目覚しい進歩による早期発見、早期治療が可能になったことをあらわしている。こうしたことはがんからの生還が期待できる多くの新薬が開発されていることにもよるが、現実的にいまだ死因の第2位についていることから、撲滅まではるか遠い道のりを辿らざるを得ないことが予測される。
他の先進国に比べ医薬品が30%割高、代替医療が流行る傾向に
現代がん治療における手術以外の大きな2本柱は化学療法と放射線だが、強い薬などはがん細胞以外の正常細胞に悪影響を与え、その結果多くの副作用が起こる。さらに、がん患者の体力を奪うことにもなり、治療が正常に行われなくなるというケースも多い。さらに多くの医薬品を使って長期的な治療を受けることは、多大な費用がかかる結果にもなる。ちなみにUSAトゥディに掲載された記事によると、米国は他の工業国に比べ医薬品が30%ほど割高になっているという。
こうした背景を受け、また異文化との交流や最近のインターネットの目覚しい発達などもあって、現代医療に急速に食い込んできたのがハーブや鍼を代表とする代替医療(Alternative Medicine)といわれるもの。現代のがん医療現場でもこの代替医療を無視できない状況に至っている。
栄養素の研究など7項目の代替療法にNIHが研究資金援助
急速に膨れ上がる代替医療への関心を政府も見過ごせないこととなり、1992年米国立衛生研究所(NIH)はOffice of Alternative Medicine(OAM)を設立、本格的に代替医療への研究に取り組み始めた。OAMの主な使命は「代替医療の有効性を評価するための研究」を支援しその記録を残していくことで、NIHからの研究援助金が約17研究機関に割り当てられている。
OAMは代替医療をおおまかに次のように7項目に分けている。
1) ダイエットと栄養素(diet and nutrition)
多くの代替医療では、抗がん作用を期待する食事と栄養素補給プログラムを取り入れている。英国のがん患者の61%が特別な食事プログラムに参加しているが、現代一般医療でも最近は、多くの野菜・果物、食物繊維を取り入れ、過剰な脂肪を避けることががん予防につながることを認識している。現在がん治療として最も有名なダイエット・プログラムがマクロビオティック。日本人の久司道夫氏が開発して以来、米国でも人気を集めている。
このプログラムは、1日の総カロリー摂取が未精白穀類から50〜60%、野菜から25〜30%、残りを豆類、海藻類、スープから摂れるようデザインされている。また、肉類とある種の野菜を避け、大豆摂取を奨励するもの。
NIHのOAMでも、同プログラムの抗がん効果を調べる研究に援助金を出している。この他、栄養素とがんに関する研究は最近火がついたように盛んになっており、大豆含有物質やトマトなどに含まれるカロチノイドなどが抗がんの有効性を大いに発揮する研究材料としてひっぱりだこである。
2) 心と身体療法(mind-body techniques)
この分野の代表格としてバイオフィードバック、ヨガ、瞑想、祈りなどがある。心の健康が肉体に影響を与えるという考えは米国でも最近になって注目されてきた。今のところ、大きな研究成果は挙がっていないが、がん治療や予防に精神の健康を維持することやマインド・ボディ療法を取り入れるクリニックも増加してきている。
1989年、Lancet誌に掲載された研究によると、礼拝に毎週参加する乳がん患者は参加しないグループに比べ、生存期間が倍加しているという。また、患者393人を調べた研究では半数が遠距離から健康回復を祈られたところ、治療効果に目立った改善が見られたという。
3) 生物電磁気(bioelectromagnetics)
支持派は磁場が体を刺激し、損傷を受けた組織の治癒を促すと強調しているが、今までのところ大きな研究成果は挙がっていない。ただ、OAMはがん治療への有効性を調べる試験的研究を支援している。
4) 伝統・民間療法(alternative systems of medical practice)
この分野には、中国伝統医療やインドのアーユールベーダなど世界各地で古くから伝わってきた伝統医療などが含まれる。例えば、アーユールベーダは5千年にもわたってインドに伝えられてきた古代医学で、人の体は3つのドーシャのうち1つに支配されるという理念に基づいた治療が行われる。ハーブやヨガ、瞑想といった技術を使って、ドーシャバランスを維持することを目的としている。北米でも注目されているもので、過去10年程で2万5千人以上の患者が同医療を受けている。
また、中国伝統医療も同じく注目を浴びている。体のエネルギーの流れである「気」を正常に保つことが健康維持であるという考えを基にハーブや鍼などを使う。特に鍼治療ではその有効性を示す多くの研究報告が行われ、現在様々な医療保険の補償対象に組み込まれるまでになった。
――この他、伝統・民間療法の一環としてヨーロッパ、アジア、北米など世界各地で古くから使用されてきた5)ハーブ治療、6)手技などによるヒーリング(manual healingmethods)7)薬剤と生物学療法(pharmacologic and biologic treatments)に分けられている。
免疫システムの強化で中国ハーブが注目
手術と薬で死亡率を抑えてきた現代がん治療にもところどころにほころびが見え始め、同
時に大きくなりすぎた医療機構への不信感などから自然療法を主体とする代替治療への
関心が高まるようになった。がん細胞を外敵と定め、薬で攻撃し破壊しようとする現代医学
と異なり、自然療法は人の体に備わっている免疫システムを強化することで体ががんを撃
退するところを最終ゴールとしている。そのために使用するのがハーブで、体を掃除し免疫
システムを促進させるのが目的。
中国ハーブががん療法として有効性を期待するものには、朝鮮人参、イボタノキ属
(ligustrum)、マメ科ゲンゲ属(astragalus)、ツルニンジン(codonopsis)、オケラ
(atractylodes)とganodermaなどがあり、この調合は体の自然な抗がん作用を促進すると
考えられている。
特にマメ科ゲンゲ属(astragalus)は免疫細胞であるナチュラルキラー細胞の活動を活性化
するとされている。最近の研究材料の筆頭としてレッドクローバーがある。新しい腫瘍の血
管形成を防ぐことで強力な抗がん作用を持つとして期待される。また、発がん物質とDNA
の結合を防ぐと指摘されているハーブがローズマリー。カルノシン酸、テルペン酸、べチユ
リン酸などを含み、抗がんと抗炎症作用が明らかになっている。
米国で研究テーマの1は大豆の有効性
American Institute for Cancer's Research's Diet & Cancer ProjectであるFood, Nutrition
and the Prevention of Cancerからの最近の報告によると、食事とがんとの関連性が多くの
研究で指摘されるようになり、「健康的な食生活を送り適度な運動をすればがんは防げる」と
いう見方に世界全体が傾きつつあるといわれる。
専門家によると、世界中のがん患者の30〜40%は予防できたものとの見方がなされ、特に野
菜・果物といった植物系食品に含まれる栄養素は研究者の関心の的となり、世界的な研究
ブームとなっている。
現在注目を浴びている栄養素には、次のようなものがある。
1) 大豆/現在研究テーマ人気ランキング第1位といったところ。がんは勿論のこと、骨粗し
ょう症から心臓病、更年期障害予防まで、万能薬といった錯覚すら起こしかねない扱いだ。
そもそも欧米でこれほど人気が高まったのは、豆腐、味噌など大豆関連製品を多く摂るアジ
ア女性の乳がん罹患率の低さに欧米研究者が注目したことによる。
最も力を発揮すると考え
られるのは、大豆成分であるイソフラボン。弱い植物性エストロゲン作用を持つことから更年
期障害治療薬のエストロゲンの代用となり、副作用として心配される乳がんの危険性を下げ
る。また、がん細胞の栄養補給経路となる腫瘍の血管形成を防ぐことも指摘されている。
2) 十字花野菜(cruciferous vegetables)/キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ケール、
メキャベツなどがこの仲間。Phase 2 detoxification酵素を含むといわれる。同酵素は人の
あらゆる器官にあって発がん物質からの防衛最前線にあたる。
1997年ジョンホプキンス大学研究者グループが発表した研究報告によると、ブロッコリーの
新芽には通常のブロッコリーに比べ、20〜50倍のsulforaphaneが含まれているという。この
物質は1992年、体の抗がん力を促進することが指摘されている。ラットを使った研究では、
メス20匹を発がん物質にさらした後、2グループに分け1グループに新芽エキスを5日間与え
た。エキスグループでは腫瘍の増え方が抑制され、また腫瘍も小さくなったことが観察されて
いる。
3) ガーリックなどオニオン類/この仲間にはdetoxification酵素を増大する硫化アリルが含
まれており、発がん物質の活動を抑える。1995年発表された研究によると、ガーリック、オニ
オンなどを多く摂取すると胃がんの危険性が40%低下したという。
4) 未精白穀類/オートミール、ブラウンライスなど。はっきりとしたメカニズムはいまだ解明
されていないが、低脂肪で食物繊維繊維の多い食事を摂ると結腸・直腸がん、胃がん、乳
がん、すい臓がんの危険性を低下させるという。ある説によると、食物繊維が結腸の中の発
がん性物質を希釈し消化器官の通過を加速するといわれる。
5) オリーブ関連製品/オリーブの実やオリーブオイルなど。スクアレン(squalene)と呼ば
れる植物性栄養素を含む。これは、胃がんや結腸がん、前立腺がんの原因となる発がん
性物質を活性化する酵素を抑制する効果があると考えられている。
6) お茶/ハーブティー以外の緑茶、紅茶。強力な抗酸化効果を示すフェノール、ポリフェ
ノールを含むが、DNAに損傷を与えるフリーラジカルを掃除する働きが指摘されている。フ
ェノールはまた、発がん性物質の形成を抑制しdetoxifying酵素の活動を促進させる。
7) 魚/サケ、まぐろ、いわし、さばなど。これらの魚はオメガ3脂肪酸の宝庫といわれ、がん
を誘発する有害酵素の働きを抑える。オメガ3脂肪酸は、この他カノラオイルや亜麻種油に
含まれるといわれる。
穀類、豆類、野菜・果物を中心に摂り、加工食品の排除を心がける必要
Food Nutrition and the Prevention of Cancer:A Global Perspectiveは、4千500件以上
の研究を基にがんの罹患率低下が期待される「食生活ガイドライン」を発表している。
以下に概要を紹介する。
1) 野菜・果物、豆類など植物性食品を中心とし、加工食品を削減した食生活を選ぶ。
2) 体重超過や体重減少には注意。成人後の体重の変化は5kg以内に抑える。
3) 定期的な運動が無理なら、毎日1時間ほどの散歩か、少なくとも1週間に少なくとも総計1時間ほどの運動を心がける。
4) 1年を通して、数種類の野菜を1日約400〜600g食べられるようにする。
5) 穀類、豆類、根類などを1日約600〜800g食べる。また、なるべく精糖を避けるようにする。
6) アルコールは少量。男性なら1日2杯、女性なら1杯以下。
7) 赤みの肉類は避けるか、制限すべき。1日80g以下に。できるなら、魚、鳥肉を選ぶ。
8) 脂肪類、動物性脂肪食品も避けて。植物性オイル、あるいは魚油、種油などを使用。
――などとなっている。