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【 遺伝子組換え食品で追い風に、米国オーガニック産業 】

主要スーパーマーケット・チェーン店におけるオーガニック売り場の拡張ぶりから、近 年、オーガニック市場が急成長を遂げているのは一目瞭然だ。フード・マーケティング ・インスティテュートによると、スーパーマーケットの買い物客の4分の1は少なくと も週に一度、オーガニック食品を買っている。最近行われた全国規模の世論調査では、 米国消費者の54%がオーガニック商品を好んで買っていると回答した。食品市場で最 も伸び率の高いといわれているオーガニック(自然・有機作物)産業の現状と、世界で 物議をかもし出している遺伝子組み換え作物とのかかわりについて報告する。

1997年、米農務省の基準提案に米国オーガニック業界憤慨

オーガニック食品業界の昨年の売り上げは約42億ドル。1980年には7800万ドルだった 市場が、毎年、20%ほどの伸び率で成長している。2000年には作物の10%がオーガニ ック技術を使って栽培されるものと予想されており、ブームにますます拍車がかかりそうだ。 「体にいい食」=「オーガニック」は今や常識となっている。

その「オーガニックならば安全」という消費者の頼みの綱に、暗い影が差し込んだのは1997 年12月だった。米国農務省(USDA)が全国オーガニック食品基準を提案。その内容に 米国オーガニック業界は狼狽した。

米国オーガニック業界はUSDAと1990年以来、オーガニック市場の改善を目指し連邦基 準作りに励んできたにもかかわらず、USDAの打ち出した提案は、現行の基準を緩め、農 業関連の巨大産業、大手スーパーマーケット・チェーンの参入を容易にし、オーガニック市 場を大手に牛耳らせてしまうような内容であった。さらには、遺伝子組み換え作物、放射線 作物といた世界で安全性が問題視されている作物の閉め出しについても実にあいまいなも のだった。

27万通超える抗議により、オーガニック表示から遺伝子組み換が排除 

現在、17州、33民間団体によって使用されているオーガニック作物表示基準は、統一はさ れていないものの、比較的厳しく、いずれも、遺伝子組み換え、放射線といった技術を使っ た作物に対し「オーガニック」と銘打つことを禁じている。

組み換え作物の表示がまだ義務付けられていない今、オーガニック購入が、安全性で白黒はっきりしていない作物を口に しないですむ唯一の方法といえる。それが、USDAの新基準提案が成立すれば、オーガ ニックといってもいったい何を食べているのか消費者にはわからないといった「オーガニック であってオーガニックでない」混乱状態を引き起こすことになりかねない。

そこで、消費者団体や民間団体らは、「SOS(セーブ・オーガニック・スタンダード)」、「オー ガニックをオーガニックとしてキープしよう」といった草の根レベルのキャンペーンが次々に スタートした。基準緩和反対を唱え、組み換え作物などの閉めだしを求め、USDAに寄せ られた新基準への意見はなんと27万超。その結果、USDAは1998年5月、新基準提案 を抜本的に修正すると発表した。

USDAのダン・グリックマン農務長官は「USDAはオー ガニック農家および消費者に喜んで受け入れてもらえる全国統一の基準作りに努めてい る。数多くの意見が最初に出た新基準提案の修正を要求しており、我々はそれにこたえ るつもりだ。寄せられた意見から、遺伝子組み換え技術などを使った作物は、今のオーガ ニック概念そして消費者らの望むオーガニック食品とは相反しているということがはっきり をわかった。オーガニック表示からはずすことになるだろう」と、遺伝子組み換えといった 技術を排除する方針だ。

最終修正案の発表の目処つかず。オーガニック食品は20%の伸び

現在、USDAは修正案の内容を煮詰めており、一般消費者などから修正案への意見を 90日間受け付けた後、意見などをもとに再検討することにしている。関係者の話では、 いつ最終修正案が出るかはまだわからないという。

オーガニック・トレード・アソシエーションのコミュニケーションディレクター、ホリー・ギブン スさんは「現時点では保証付きオーガニック表示に遺伝子組み換え作物は一切含まれ ていない。遺伝子組み換え排除のインパクトが強く見られるのは乳製品で、通常の伸び 率を上回る需要を示している。

遺伝子組み換えホルモンを注射した牛からとれたミルクお よび乳製品の買い控えが目立つからだ。その他のオーガニック食品に関しては、これま で通り20%の順調な伸びを示している」と話す。

遺伝子組み換え作物を含むすべての食品に表示を義務付ける法案を発表

世界で栽培される遺伝子組み換え作物の4分の3を生産しているという遺伝子組み換え 大国アメリカ。食料品店の棚に並ぶフードの60%から70%は遺伝子組み換え品が原料 の一部などとして含まれている。栽培されている大豆の55%、とうもろこしの40%が遺伝 子組み換え種子を使用。

FDAの推定によると、ここ数年内に新たに150の遺伝子組み 換え食品の販売許可が下りるという。この3年ぐらいで、ここまで普及した現実を知るアメリ カ人は少ない。といのも、遺伝子組み換え食品には表示の義務がないからだ。

USDA資金で行われた1996年世論調査によると、94%が遺伝子組み換えホルモンを 注射した牛からできる乳製品に表示をすべき、74%が遺伝子組み換え食品は安全だと 思わないと、それぞれ回答した。また、別の世論調査でも、93%が遺伝子組み換え食品 の表示を義務付けるべきだと答えている。

こういった世論、また最近になって遺伝子組み換え作物の安全性および自然環境に与え る影響の是非をめぐり論争がある程度拡大してきたのを受け、クシニッチ下院議員(民主 党)、ギルマン下院外交委員長(共和党)ら超党派の議員団が10日、遺伝子組み換え作 物を含むすべての食品に表示を義務付ける法案を発表した。農薬散布の手間が省け、 収穫量も増えるといた「組み換え」の恩恵を受けている農業生産者側の議員が反対する ものと見られており、今のところ成立するかどうかは微妙なところだ。

法案の内容は、栽培、加工、流通の各段階で組み換え作物を含むかどうかを確認し、組 み換え食品と非組み換え食品を分別する仕組みを構築した上で、農業生産者は加工・ 流通議業者に表示を義務付けるとういもの。これまで表示の義務付けを訴え続けてきた 消費者団体らは、すでに法案に支持を表明している。

未知の危険に、消費者は表示により選ぶ権利を要求

アメリカ農業に遺伝子組み換え作物が登場したのは1992年。農業生産者が、農薬散布 の手間が省け、収穫も増えるといった利点の大きなこの新技術に飛びついたのはいうま でもない。現在、遺伝子組み換え技術を使ったとうもろこし、大豆、コットンが約5000万 エーカーで栽培された。

ニューヨーク州の1.5倍に当たる広さだ。大豆、とうもろこし、ト マト、コットン、じゃがいも、かぼちゃなどが、遺伝子組み換え作物として販売許可が下り ている。多くの消費者団体やオーガニック関連の団体などは、遺伝子組み換え作物を 危険分子としてみなしているが、実際のところ危険かどうかは、まだ分からない。とにかく 出てきたばかりで、長期にわたりる影響はまるで未知の世界だ。

コーネル大学の研究者が、遺伝子組み換え技術を使ったトウモロコシの花粉が、害虫だけではなく害虫を食べ てくれる益虫のMonarch Butterflyという蝶の幼虫を殺してしまうと内容の研究報告を した。こういった自然に与える脅威が報告されているものの、危険かどうかという問いには、 まだ専門家の間でも結論が出ていない。

収穫を増やせることで世界の食料不足を救えるといった前向きな意見も出ており、どち らが正しいという結論なしに賛否両論が入り乱れている。そこで、とりあえず表示を 義務付けて消費者に選ぶ権利をゆだねるという動きを消費者が支持しているというのが 現状だ。

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