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【 カイロプラクティックと鍼療法 】

最近の米国で主流医学に食い込む勢いを見せる代替医療だが、その先駆者ともなった のがカイロプラクティック。1998年の調べでは、10人に1人のアメリカ人がカイロプラクテ ィック医を訪れるという。高まる人気と需要で、最近ではHMOを始めとしカバーする医療 保険も増えてきた。昨年、米国立衛生研究所(NIH)はカイロプラクティック研究へ270万 ドルの予算を当てることを決めている。

1994年以降、カイロの人気に拍車

カイロプラクティック人気は、1994年米厚生省の所属機関であるAgency for Health Care Policy and Researchが成人の急性腰痛治療として安全かつ有効性ある 薬剤を使わない治療法であると支持する研究報告を発表して以来、さらに拍車がか かったかに見える(専門家によると、痛みが数日から数週間続く場合を急性、3ヶ 月以上になる場合を慢性と判断する)。

カイロプラクティックには「手によって行われる」という意味があり、19世紀の終わりごろ、 形而上学、理論学的に健康哲学に興味を抱いていたダニエル・デービッド・パーマー 博士が基礎を作り上げた。人間の体の中で背骨の構造が果たす役割は大きく、これら 筋骨格のバランスを調整することで体が本来持つ治癒力を高めていこうというのが基本 理論だ。

痛みの緩和の他に、免疫システムの強化にも有効

パーマー博士は、多くの疾患の95%が背骨の亜脱臼(subluxation)によるものと考えた。 これが背骨の神経に影響を与え、機能を妨げることで病気が起こりやすくなるという。 現在でもこの考えはカイロの根底を流れており、体の関節、特に背骨の不都合を矯正し、 正常なホメオスタシス(恒常性)を取り戻して自然な治癒力を高めることを目的としている。

つまり、カイロプラクティック専門医は矯正により、腰痛、背骨の痛み、首の痛みなどの 他に頭痛、偏頭痛から免疫システムを侵すがんやHIVなどの感染にも有効性があると考 えている。カイロプラクティックにはマッサージから電気的刺激まで約100種ほどのテク ニックがあるが、主として多く行われるのが背骨の手による治療(spinal manipulation) である。

現在までのところ、その有効性が研究されているのは腰痛や事故にあった後の首の 痛みなどに対するものが中心。1995年のBritish Medical Journalに掲載された研究 では、カイロプラクティック治療を受けている腰痛患者に29%の痛み緩和が見られた という。

ただ、1998年米国とカナダで腰痛患者131人を対象に行われた研究では、46% がその治療を評価しているが、29%は不適当としている。専門家は両方の数字が近い ため、結果はあいまいとみている一方で、少なくとも腰痛に関しては安全性が高いと考 えている専門家もおり、論議は高まっている。

背骨の不全を矯正することによる各疾患の治療、科学的検証はこれから

1995年Journal of Manipulation and Physiological Therapeuticsに掲載された、 頭痛に対する有効性を調べる研究では、spinal manipulationを6週間受けた患者と重 症の頭痛に処方されるamitripylineを飲んでいる患者とを比較している。これでは、カイ ロプラクティック治療グループが薬剤治療グループに比べ、痛みの程度と頻度が30% 減少したという。

研究者は「たとえば電話をかけるとき、フックを首にはさんで長時 間喋ったりすると、背骨の脳へ経路としての機能が圧迫され、血液の循環や正常な神 経機能が阻害される。結果として頭痛が起こる。そのような場合、背骨の機能を正常 に戻すことで頭痛は緩和されるはず」と説明している。

だが、背骨機能の不全を矯正することによって各疾患が治療できるかどうかについ ての科学的裏付けは殆ど得られていないのが現状。The New England Journal of Medicine1998年10月8日号に掲載された研究では、米国とカナダの研究者グループが7 歳から16歳までの喘息患者91人を対象に調べ、91人を、spinal manipulationを行 うグループと擬似的療法を行うグループに分けそれぞれ4ヶ月間の治療を続けた。

この結果、両グループでも喘息症状の緩和が見られ、その差は殆ど違いがなかったとい う。研究者は「軽度の喘息患者でカイロプラクティックのspinal manipulation療法 は有効性が見られない」と結論付けている。

また、上気道感染による中耳炎の緩和に有効性が見られることを多くのカイロプラ クティック医は指摘しているが、これについてもはっきりとした科学的確証はまだ得 られていない。カイロプラクティックの専門家は、中耳炎の原因について首の構造的歪 曲が耳管の形を変え、結果として膿を出すと考えている。

米国で市民権を獲得しつつある鍼療法

代替医療の中でカイロプラクティックと同じように注目され、米国で市民権を得よう としているのが鍼療法だ。もちろん中国では、伝統医学の一つとして支持され3千年 近くの歴史を持つ。人の体には「気」と呼ばれるエネルギーの流れがあり、これが塞 がれたり阻害される結果として病気は起こるというのが、基本理論。エネルギーの経路 は14あり、それぞれの経路上で大切なポイントを刺激することで、エネルギーの流れを 正常に戻すと考えている。

この「気」の考えを現代医学の研究者たちに納得させるのは 困難だが、鍼療法の有効性を受け入れている専門家は、鍼による刺激がエンドルフィン と呼ばれる強力な脳内化学物質を分泌させ痛みをコントロールしたり、また体内システ ムを制御する物質やホルモンを分泌させたりすると説明付けている。

変形性関節炎などさまざまな痛みの緩和に効果

鍼治療の有効性については、多くの疑問や信頼に足りる研究の欠如という問題が指 摘されているにもかかわらず、1998年米国立衛生研究所(NIH)の諮問委員会は、 「鍼療法は歯科手術による痛みや妊娠期間中の吐き気、嘔吐緩和などへの有効性を証 明する十分な研究報告がある」という意見で一致、発表を行った。このことから、鍼 療法への注目度はさらに増したといえる。

最近、様々な疾患に対する有効性の研究が増加している。治療困難といわれる関節 炎の痛み緩和への有効性も期待されている。NIHが支援した研究の一つは、一般の薬 剤治療では緩和しない症状を持つ膝の変形性関節症患者58人を対象に行われた。半数 をこれまで通り薬剤治療を続けるグループ(対照グループ)に、残りを1週間に2回計 8週間の鍼治療を続けるグループに分けた。痛みの度合いを数度にわたって計測した ところ、鍼グループは対照グループに比べ、痛み緩和の効果が4週間で現れたとい う。

鬱病、喫煙習慣も改善。副作用はみられない

また、うつ病緩和への有効性を調べる研究では、1998年アリゾナ大学研究者グルー プが鬱状態に悩む女性患者38人に対して鍼治療を施した。1つのグループには、うつ 病治療に的を絞った鍼療法を行い、別のグループでは腰痛治療に焦点を合わせた。

この結果、特に鬱病に対し治療が行われたグループの鎮静率は2倍になっていたとい う。この他、喫煙習慣を止める治療として鍼が有効であるという指摘も挙がってい る。患者の耳のツボに鍼を刺すことで、喫煙への渇望を止めるというもの。ギタリ ストのエリック・クリプトンが鍼でヘロイン中毒を治療したという例がある。

その一方で、有効性の裏付けに失敗した研究では、Stroke(1998年)に掲載された ものがある。これまでの中国を中心とした研究では、鍼治療により卒中患者の後遺症 などの症状を好転させるという報告がされていたが、スゥエーデンの研究者グループ が行った研究では、有効性を示さなかったという結果が出ている。

研究者グループは、卒中で歩くことや自分で食事をとることが出来ないという神経障害を起こしてい る患者104人に鍼治療あるいは偽薬を与えた。患者を@深いところへの鍼治療A表面 的な鍼治療B一般的なリハビリ――の3グループに分けている。これによると、3つの グループにはっきりした違いは現れなかったという。

鍼治療による深刻な副作用は報告されていないが、鍼を使うことからB型肝炎など 感染性疾患の危険性があるため、医療技術や殺菌などの知識に信頼性のない鍼治療医 を選ばないよう専門家は忠告している。

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