ここ数年、日本では”癒し”という言葉が頻繁にマスコミに登場するようになり、音楽やグッ
ズに心の安定を求めるという風潮が高まっている。同様に代替療法が盛んな米国でも自
宅でも気軽にできるセルフ・ケアーとして、今、癒し系の療法がブームになっている。
ストレス解消、痛みの緩和などに効き目があるといわれるヒーリング(癒し)療法。中で
も注目されているのがライト療法、音楽療法、アロマテラピー、メディテーション。これらの
医療現場での利用状況について今回まとめた。
「光り」不足が、疲れ、虫歯、憂鬱、免疫力の低下招く
現在米国で注目されているのが「ライト」や「色」を使った療法。太陽光線のフル・スペクト
ルから紫外線、色付きライトなどを使い、慢性の痛みから、憂鬱、免疫系の異常といった
体と心の疾患に効き目があると注目され、現在、さまざまな研究が行われている。
視覚に入った光は、「光り」また「色」に敏感な多数の細胞によって電気インパルスに変化
する。このインパルスは、神経を伝わり脳にたどりつくと、血圧、体温、呼吸、消化、性機能、
気分、免疫、老化といった主だった身体機能の調整に大きくかかわっている視床下部腺を
刺激し、体の自動的機能を調整するケミカル・メッセンジャーを始動させるという働きがある。
光りと身体のこういった仕組みを利用して、体のバランスを整え健康維持をはかるというわけ
だ。
いつくかの研究で、栄養不足と同じように体に必要な十分な光が補給されないと体内のバ
ランスが崩れ健康に害を及ぼすことが立証されている。「光り不足」は、疲れ、虫歯、憂鬱、
免疫力の低下、脳溢血、抜け毛、アルツハイマーなどに大きく関与しているという。また、
ナショナル・インスティテュート・オブ・ヘルスの最近の研究は、筋力の低下との結びつき
を指摘している。
人生の大半を室内で過ごすためどうしても「光り不足」になりがちな現代社会が、憂鬱、心
臓病、落ち着きのない子供、粗骨症といた健康問題を引き起こしていると警告を促す研究
者も少なくない。
現在、フル・スペクトル・ライト療法、ブライト・ライト療法、紫外線療法、コールド・レーザー療
法といったいくつかの療法が知られる。いずれも、ハイパーテンション、憂鬱、不眠、生理中
の精神不安定などに効き目があるといわれている。また、コールド・レーザー療法は鍼療法
と併用することで針の効果がアップするという報告もある。
未来の医療の担い手として「光り療法」が注目されている。今や健康管理の常識になってい
るダイエットや運動に、いつか「光り」が加わるだろう――そんな声もあがっているほどだ。
アルツハイマー患者への音楽療法が盛んに
「音」による”癒し”の療法は病院、学校、会社、さらには精神科の治療などで使われている。
ストレスを緩和する、血圧を下げる、痛みを和らげる、学習障害を改善する、体のバランスを
整える、忍耐力を強化する――などの効果が報告されている。
音楽療法士によると、ある種の音に呼吸をスローダウンさせたり気分を改善する効果があると
いう。また別の音には心拍数を減少させ、ぐずっている赤ちゃんもおとなしくさせる効果など
それぞれの音に働きがあるという。通常ならば人の耳では聞こえない超音波にも体調を整え
るといった効果があるそうだ。
病院がこういった音の効果に目をつけて「音楽療法」を取り入れたのはなにも最近のことでは
ない。痛みの緩和を目的に、歯科医の治療室、手術室、分娩室などで音楽は昔から流れて
いた。音楽を流すことで入院患者の気分を和らげるという効果も指摘されており、手術の数日
前に、テンポの遅いバロックやクラシック音楽を患者に聞かせ、回復室でも同じ音楽を流した
ところ、術後の動揺を最小限にとどめることができたといった調査報告もある。
また、アルツハイマー患者への音楽療法もかなり一般的になってきている。言葉ではコミュニ
ケーションできなくなり、目的のある行動も自分から起こせなくなった患者にとって、知覚上の
刺激はとても重要だ。刺激が、引き出しの奥にしまいこまれた記憶を引き出すことができると
いわれている。コミュニケーションの力を高めるほか、憂鬱を和らげ、病気の進行を遅らせるな
どの効果があるという。また、心安らかに最期を迎えるための施設「ホスピス」でも音楽療法を
取り入れているところは多い。
健康関連の催しでも、必ず目につく”癒し”系の音楽グッズ
現在、北米の治療センターで使われている音楽療法器具に「エレクトロニック・イヤー」という
のがある。フランスの音楽療法士が開発したもので、聴覚の発達段階を模倣した機材。中耳
の筋肉を鍛え、あらゆる波長に耳が反応できるようデザインされている。骨を通じて振動を感
じる装置を内蔵した特殊なヘッドフォーンをつけることによって、患者は音を聞き取ることが
できる。音楽療法士は「エレクトロニック・イヤー」を使うことで、読書障害、自閉症、集中力欠
陥症といった患者の集中力、聞き取り能力を効果的に高めることができるという。また、クリエ
イティブな能力の開発、音楽や語学の習得力アップといた効果も報告されている。
マッサージ療法の器具として、連邦食品・医薬品局(FDA)の認可待ちとなっている
「Infratonic QGM」は、中国の科学者が開発したもので、超低周波音を使った器具。気功士
が「第二の音」と呼ばれるハイレベルの波動を手から発していることを発見、そこからヒントを得
て器具を作り、1100人以上の入院患者に試したところ、「痛みが和らいだ」、「頭痛がなくなっ
た」、「体内の循環がよくなった」「憂鬱な気分が改善した」、「脳のアルファ波が高くなった」と
いった効果が報告されている。
サウンドテーブル、脳波ヘッドセットのほか、身近なところでは癒しのニュージックテープやCD
が現在、市場に出まわっている。中でも健康関連の催しにいくと、まず必ずといっていいほど
ブースで紹介されているのは、癒しの音楽テープとCD。音楽療法士らは、サウンドが将来的
に、治療の基本要素のひとつになっていくと、大きな期待を寄せている。
アロマテラピー、医療現場での使用を求める声も
また健康食料品店の定番、どこでも必ず置いてあるのがアロマテラピーのエッセインシャルオイ
ル。米国の健康関連の催しでも必ず顔を出す。個人が家で、マッサージと併用してエステで、
購買意欲の向上に役立つと小売店で、そして仕事の効率アップを狙ってオフィスでと、幅広く
利用されている。しかし、医療におけるアロマテラピーとなると話は別。ヨーロッパのように実際
に現場で使われることはまずないという。
ここ数年、アロマテラピーの感染症治療効果が大きく注目されている。アロマテラピーの先進
国フランスでは、この感染症治療の目的ですでに広く使われているという。医者がエッセンシ
ャルオイルを処方するのは日常茶飯事。薬局でも普通の薬と同様にオイルをストックしている
ほどだ。
同じヨーロッパでも英国は、主にストレスがらみの健康疾患に使っているという。病院
の看護婦らは、患者の痛みを和らげたり、睡眠を助けるのにオイルを使ったマッサージをやっ
ている。また、レモン、ラベンダー、レモングラスといったエッセンシャルオイルを室内で蒸発さ
せて、空気感染の予防に役立てているという。
だれもが知っているストレス解消のほか、呼吸気管の細菌感染、免疫異常、皮膚病などにも効
き目があるといわれるアロマテラピー。西洋医学の限界に気付きはじめホリスティック医療への
関心が高まる中、アロマテラピーの需要も確実に高まりつつある。
既存医療にかかわる医者が、
治療法のひとつに取り入れてくれればという声もあがってはいるものの、現実はまだまだほど遠
い。フランスのように医者が処方するまでになるには、政治的な壁を乗り越えなければならない
からだ。ドル箱ともいえる医薬品市場にとってアロマテラピーは一種の商売仇。医療における
米国のアロマセラピーの将来は、医薬品業界との力関係の行方にかかっているといえるだろう。
メディテーションに免疫力を高め、感染症から体を守る働き
この他、ナショナル・インスティティート・オブ・ヘルスが1984年、マイルドな高血圧の治療とし
て処方薬の前に試してみるべきと推進した「メディテーション」。これまで数々の研究が行われ
ており、免疫力を高め、感染症から体を守る働きも指摘されている。
ハーバード大学のマインド・ボディー・インスティテュートは、メディテーションすることで視床
下部のある部分が刺激され、呼吸回数、脳波のリズム、血液の流れに影響を及ぼす、また、テ
ネシー州の医療センターでは、糖尿病にかかった23歳の女性がヨガを始めたところ、インシュ
リンへの依存が激減したと、それぞれ報告している。
ほかにも、不整脈の治療、ストレスや不安感の解消、心拍数の減少、記憶力向上、痛みの緩和、
視力や聴力の向上、そして、消化や呼吸機能を高めるほか、ドラックやアルコール中毒からの
立ち直りにも効果があるといわれている。