カイロプラクティック16%、ビタミン多量投与13%、マッサージ14%、ホメオパシー5%、そして
ハーブ治療17%。1,300世帯を対象に行った代替治療の実態調査結果(1998年)である。
主流である現代医学、科学者らの懐疑的見方をよそに、代替療法の人気はエスカレートす
るばかり。代替医療の中で、ここ数年特に伸張著しい漢方ハーブの現状を報告する。
現在の米国における漢方ハーブ伸張の実情、問題点
「ヘルスネットメディア」(http://www.health-station.com/)のトピックで、元ニューヨーク医科大
学臨床外科教授の廣瀬輝夫氏とスクリップス クリニック医療グループの元プレジデントのロ
バート M ナカムラ氏の「米国における代替医療の現状」についての講演内容を紹介した
が、その中で両者とも米国における漢方ハーブの伸びを指摘しているが、今回その背景
について考察した。
つまり、 米国内での漢方ハーブの需要の伸びは、最近のオルタナティブ・メディスン(代替
療法)人気が追い風になっているものの、本質的には中国人社会を中心としたものであると
いうことのようだ。これについて、最近の中国からの移民急増が大きな要因になっていると、
専門家も指摘する。
新しい中国移民の中で英語力もなく社会的立場もない労働者は、低賃金で働かざるを得
ない。当然、医療保険に加入できるわけもなく、高度の医療ケアを受けられない。そうした
米国の主流ケアからはずれた移民達は、母国で長い間使っていた中国ハーブに頼ること
になる。
一方で、移民の2世、3世の中には米国社会に入り込み、中国ハーブを広めようとする者
も出てくる。だが、専門家は米国社会の主流として認められるには時間がかかるだろうと
分析する。中国ハーブは多くが数種の植物の調合で使用されるため、アメリカの一般消
費者には理解しにくい。米社会で市民権を得るには、誰にでも納得できる基準化が必要
だと指摘している。
さらに、もう一つの障害は米科学者らの懐疑的見方。中国の長い歴史の中で愛用されて
きた中国ハーブだが、安全性と有効性を証明する研究が少なすぎることを理由にしてい
る。
有毒性が指摘されたハーブも確かにある。1993年のLancet誌によると、ベルギーの医師
は、服用で48人の女性に腎不全の症状が出たことから、Stephania tetrandra(ハスノハカ
ズラ属)とMagnolia officinalisの2種に対する警告を発表している。
また、1995年US National Fish and Wildlife Forensics Laboratoryは数種のハーブと蜂
蜜を混ぜて玉にした「ハーブボール」32個を検査したところ、高濃度の水銀と砒素が含ま
れていることを明らかにしている(The New England Journal of Medicine)。
ハーブ産業、36億5千万ドル(1997年)に
現在、こうしたさまざまな問題点をはらみながらも、漢方ハーブをはじめ、各種代替療法が
米国では人気を得ているのも事実だ。
伸張の推移をみると、ホメオパシー医の数は1970年の200件から1998年に3,000件、マッ
サージ治療学校が15件(1969年)から800件(1998年)、ハーブ産業売上は20億9千万ド
ル(1994年)から36億5千万ドル(1997年)、そしてドラッグストアでのビタミン、ミネラル、ハ
ーブ商品陳列スペースでは8フィート(1995年)から22フィート(1998年)となっており、そ
の勢いはとどまるところを知らない。
代替療法の多くは世界各地で古代から使われてきた治療法が基本で、代替療法支持派
は現地の人々の間で愛用されてきたその時間の長さが、安全性や有効性を物語っている
と主張する。特にハーブ治療は、自然の植物が持つ力を取り込むことで、疾患の予防・治
療に焦点が当てられている。これまでその神秘性から興味を持たれていた東洋、特に伝
統中国医学がスポットを浴び始めている。
中国漢方ハーブなど民間療法の半数に科学的裏付け
伝統中国医学(TCM)の起こりは2千年以上さかのぼる。現在米国では、鍼治療が主流の
科学者からも注目を浴びているが、TCMシステムの中で大きな役割を果たしているのは、
やはりハーブ。中国ハーブは数千を越える植物、動物、ミネラル原質などのさまざまな物質
を含み、気の遠くなるような長い使用期間により検証がなされている。
とはいえ、代替医療の高まりに押され、最近では徐々にTCMにもメスが入っている。796件
の中国ハーブ・動物療法を調べたNational Acacemy of Scienceによると、少なくとも民間
療法の半数はその評価の科学的裏付けがとれているという。
Fu Zhen療法、がんやエイズ対策で注目
がん治療の現場でも、中国ハーブの有効性が取り沙汰されるようになった。中でも注目を
浴びているのが、Fu Zhen療法と呼ばれるもの。これは、astragalus(ゲンゲ属)、ligustrum
(イボタノキ属)、ginseng(朝鮮ニンジン)、codonopsis(ツルニジン)、atractylodes(オケラ)、
ganodermaを調合したもので、体の非特異免疫を強化しT細胞の機能を増大する。化学療
法や放射線治療と併用し、がんの生存率を高めているという。
また、中国で通常使用されているハーブの解毒治療は、腫瘍の成長を抑制することが指
摘されている。腫瘍を抑えるハーブには、ケルプやpokerpot(ヨウシュ)などが挙がっている。
ステージIIを示す肝臓がん患者76人を調べた研究では、化学療法や放射線治療と共に
Fu Zhen治療を受けた46人のうち29人は余命が1年延び、10人は3年延びた。化学療法あ
るいは放射線治療だけを受けた患者30人では、1年の延びが6人で3年目には全員死亡し
たという。米国並びに中国で行われたFu Zhen治療研究では、がん、白血病、エイズ、慢
性Epstein-Barr感染などで有効性を発揮したことを明らかにしている。
Tangkuei(シシウド属)、強壮作用など有効性が明らかに
この他、中国では食道、肝臓がん治療で使用されるTangkuei(シシウド属)が、血液への作
用、強壮作用などの有効性が明らかにされている。
米国で、がん治療に中国医学だけを使用することはめったにないが、化学療法や放射線
治療とともに使用されることで、自己治癒力を強化し化学療法による副作用を最小限に抑
え、結果的に、科学的治療効果を促進させることになる。鎮痛効果を与え、また生命力を強
化し生存率も上げる。
中国人医師はがんの原因を多様に考える。つまり、毒物や周囲の環境などの「外的要因」と
感情、ストレス、貧しい食習慣、食品やダメージを負った臓器から出る排泄物の蓄積といった
「内的要因」だ。さらに主要な原因として、澱んだ血液と体内各器官を循環する生命エネル
ギー、「気」の流れの妨害を挙げる。この「気」と「陰陽」がTCMの根底を流れる概念である。
疾患全ては、陰陽のバランスが乱れたことと気の流れが妨げられたことから生じると考えて
いる。
免疫力と係るハーブ
さらに免疫促進と関連するハーブには次のようなものがある。
・Astragalus/肺や脾臓に作用し、気を注ぎ込むと考えられている。血液の栄養補助として、
血液に滋養を与える。東洋医学では、バクテリアやウィルス感染を防御する最前線が肺だと
考えている。女性の器官への血液の流れをよくするというcoumarinを含むことから、女性の
生理的問題にも対応する。血液に栄養を与えるビタミンB12が高濃度含まれる。
・Isatis/インジゴに含まれるもので、解毒、血液を冷やしのどの痛みを取る。
・Codonopsis/肺や脾臓に作用し気を補給する。朝鮮人参のように、体液を豊富にする。
・Schisandra(マツブサ属)/心臓、腎臓、肺に作用する。慢性の咳に使用される。
この他、気のバランスを調整、肝臓の解毒に力を与えるというbupleurum(ミシマサイコ属)は、
生理周期を調節、筋肉のひきつりなど女性の月経前症候群(PMS)による症状緩和に力を
発揮する。不正出血、寝汗、不眠、気分のムラなどPMSの症状緩和に用いられるWhite
Peony、生理による筋肉ひきつり治療に使用されるcinnamon barkなど女性の健康に愛用
されるハーブも多い。
Lancet誌(1992年3月)の報告によると、WHOはマラリアに対しニガヨモギ・エキスの使用を
支持する見解を示している。このエキスは植物のqinghaoから取ったものだが、FDA(米食品
医薬品局)については今のところ危険性ありとしている。同じくLancet誌(1992年7月)は、
ロンドンの研究者がアトピー性皮膚炎患者に対し中国ハーブ10種を調合したものと偽薬と
を比較した研究を掲載しているが、ハーブが与えられた場合、症状の緩和が見られたという。