アメリカにおける代替医療(Complementary and alternative medicine=CAM)は、
すでに一つの医療システムとして現代医療現場に浸透しつつある。代替療法と
される鍼治療、カイロプラクティック、ビタミン、ハーブなどの利用度は1990年
代に入って、格段の普及を見せている。1997年の調査段階では、全米の国民はCAMに
年間360〜470億ドル費やすと推定され、同年の公的な入院費用をすでに上回って
いることが分かっている。国民の健康、衛生を管理・維持する役目を担う政府機関
は、こうした状況を無視することができず、代替療法の利用状況などを把握する
ことが重要項目となっている。米国における代替療法利用の進捗状況を報告する。
7割強が代替医療を経験
Centers for Disease Control and Prevention's (CDC) National Center for
Health Statistics (NCHS)は、National Health Interview Survey (NHIS)2002年の
調査を基に、代替療法(CAM)利用の包括的状況を、2004年に発表している。
このデータは、18歳以上の成人、31,044人を対象に、代替療法システム(鍼、アー
ユルベータなど)、マインド&ボディ治療(バイオフィードバック、瞑想など)、
バイオロジカル治療(ダイエット、民間療法など)といったカテゴリー別の療法
27種に関したインタビュー調査により、分析結果が出ている。
まず、CAMの全体的な利用状況だが、これまでCAMを一度でも利用したことがある
割合は全体の74.6%を占めた。また、過去1年に利用したことがあるという回答は
62.1%だった。
療法を種類別に見ると、自分自身の健康のための祈り療法がトップで43%。さらに、
他者による自分自身の健康の祈りが24.4%、ナチュラル製品(ビタミン、ミネ
ラル以外)18.9%、深呼吸運動11.6%、自分自身の健康のための祈りグループ
への参加9.6%、瞑想7.6%、カイロプラクティック7.5%、ヨガ5.1%、マッサ
ージ5.0%、ダイエット治療3.5%と続いた。
以下、ホメオパシーの1.7%、鍼治療の1.1%が主なところ。ダイエット治療の中
では、アトキンスダイエットが1.7%で一番多く、その後、ベジタリアン、マクロ
ビオティックなどが0.1〜02%あたりで続いた。
また、約19%がナチュラル製品を使用したことがあると回答しているが、中で群を
抜いて多かったのが、普通の風邪症状に対して有効であるとされているエキナセア
で40.3%。以下ジンセンが24.1%、ギンコビロバ21.1%、ガーリックサプリメント
19.9%、グルコサミン(単独も含む)&コンドロイチン14.9%、セントジョンズ・
ワート12.0%、ペパーミント11.8%、魚オイル/オメガ脂肪酸11.7%、ジンジャー
サプリメント10.5%、大豆サプリメント9.4%、ラグウィード/カモミール8.6%、
蜂花粉またはロイヤルゼリー7.4%、カバカバ6.6%、バレリアン5.9%、ソーペル
メット5.8%となった。
症状別利用では腰痛がダントツ
CAMの利用状況を症状別に見たチャートによると(メガビタミン治療および祈りは
除外)、最も多かったのが腰痛で16.8%。続いて、頭や咳風邪9.5%、首の痛み
6.6%、関節の痛みやこわばり4.9%、不安感/うつ病4.5%、胃腸3.7%、痛みの
再発2.4%、コレステロール1.1%、高血圧1.0%、更年期障害0.8%などとなって
いる。
また、男性の全体的な利用率は54.1%、メガビタミンや祈りを除外した利用は
30.2%。それに対して女性は69.3%(全体的)、39.7%(メガビタミン治療および
祈りを除外)と多い。男性の場合、メガビタミン治療などのバイオロジカル治療が
19.6%、マインド&ボディ治療12.5%など。一方女性の方は、バイオロジカル治療
24.1%、マインド&ボディ治療21.1%となっている。
年齢別では、85歳以上の7割強が祈りの療法など利用
年齢別では、全体的に見ると85歳以上の高齢者が最も多く70.3%。この年齢層で最も
多く利用しているカテゴリは、祈りなどのマインド&ボディ治療で66.0%だった。
続いて利用率が多かった年齢層は70〜84歳の68.6%。カテゴリとしては同じくマイ
ンド&ボディ治療の63.3%。
これ以下の年齢層では、85歳以上に比べ、メガビタミン
治療などバイオロジカル治療の利用が多い傾向が見られる。人種別では、アフリカ系
アメリカ人の71.3%が最も多く、以下アジア系61.7%、白人60.4%と続いた。また、
学歴が高くなるほど利用度も進む傾向が見えた。
保険加入別では、65歳以下の場合、
民間保険加入者の利用率は全体的に見て61.4%、公的保険は65.1%、保険なしが
57.7%となっている。また、65歳以上になると、民間保険が68.2%、公的保険
65.9%、保険なしは74.4%という状況だ。
「医薬品などの一般治療と併用すると効果が現れる」との見解が大半
理由別に見た場合、全体的な利用度は(1)「医薬品などの一般治療と併用すると
効果が現れる」が54.9%でトップ。さらに(2)「興味があるから」が50.1%、
(3)「一般治療が効かない」27.7%、(4)「一般医に薦められて」25.8%、
(5)「一般の医薬品は高すぎる」13.2%と続いている。これを療法のカテゴリ
別に見ると、例えばカイロプラクティック治療で最も多い理由は(1)の52.9%。
さらに、(3)39.6%、(2)31.8%、(4)20.2%、(5)9.5%、ナチュラル
製品では、(2)51.7%、(1)47.5%、(3)19.2%、(4)15.3%、
(5)14.4%などと変化が見られる。
腰痛の代替療法ではカイロプラクティックが人気
代替療法への関心は政府機関のみならず、様々な団体、企業で高まっており、各グル
ープでも多様な形で調査を行っている。Consumer Reportが2005年6月に発表した
消費者調査によると、最も高い人気を誇っている療法はマッサージ、あるいはカイ
ロプラクティックという。
購読者34,000人を対象に行ったアンケート調査では、2つの症状について代替療法
に対する評価を集計している。評価は「かなり効き目がある」「いくらか効く」
「あまり効かない」「全く効かない」の段階に分けた。これによると、腰痛に
対する代替療法で最も人気を集めたのがカイロプラクティックだった。
また、ディープティッシュマッサージもかなりの人気で、特に変性関節症および
線維筋痛症に有効性があるという。
運動は、腰痛、アレルギー、呼吸器系疾患、関節リウマチ、高血圧、高コレステ
ロール、うつ病、不眠症、前立腺問題など幅広い症状で、変わらぬ人気を保って
いる。
ハーブなどサプリメント製品は、予想外に下のランクで留まったというが、これに
対してCouncil for Responsible Nutritionのスティーブ・ミスターCEOは「今の
消費者は情報に敏感である。ハーブなどのサプリメントが研究テーマに多く取り
上げられることはいいことだが、結論を早く出しすぎる傾向が見られる。また、
ハーブ製品を常に医薬品との比較で取り上げるが、これはフェアではない」と
述べる。
また、別の専門家も「ハーブなどサプリメントは、医薬品のように効くものでは
ない。何週間、何ヶ月間使用を続けて、ようやく力強い効果を生み出すもので
ある。また、中国薬草のように、患者の体質、状態に応じて処方されるもので、
決して万能薬でも即効性のある薬剤でもない」と忠告している。
総合ビタミン、カルシウム、グルコサミン/コンドロイチンが売れ筋
また、The National Academies Pressに掲載されたダイエタリーサプリメント
(ハーブを除外)の販売状況をまとめた別の分析によると(2003年1月)、売り
上げトップを独占したのは総合ビタミン剤の8億3,900万ドル。
続いてカルシウム(340/ミリオン)、グルコサミン/コンドロイチン(288)、ビタ
ミンC(230)、ビタミンB複合(90)、ビタミンB(82)、鉄分(57)、補酵素10(41)、
ビタミンA&D(34)、メラトニン(31)、亜鉛(28)、アミノ酸(21)、魚オイル
/オメガ3脂肪酸(14)、カリウム(14)、DHEA(11)、アシドフィルス(11)、
レシチン(10)、ゼラチン(8)、グルコース(7)、サメ軟骨(6)となっている。