90年代に入って、米国ではそれまで西洋医療一辺倒だった医療機構に少しずつ
異変が見られるようになった。患者サイドの要望から代替医療を試みる医療機関が
出てきたことだ。国も医療費軽減に役立つとばかり安上がりの代替医療に関心を
寄せ、90年代後半にはNIH(米国立衛生研究所)内に代替医療の研究・調査機関
National Center for Complementary and Alternative Medicine(NCCAM)を発足
させ、西洋医療とのコラボレーション(協力体制)を模索するようになる。
そのNCCAMも発足して早6年が経過する。米国代替医療の推進機関NCCAMの
近況を報告する。
200機関、1,000件を上回る研究プロジェクトに支援
NCCAMの使命は、国民一人一人の健康および幸福に大きく貢献するため、的確な科学
を土台とした代替療法(CAM)の探査、CAM研究者のトレーニング、権威ある情報の
公衆および医療機関への提供である。
目指すは、代替療法全般に関する基本および応用研究、研究トレーニング、医療情報
や代替療法の診断、予防作用、規律、システムの確認、調査、立証に関するその他
プログラムの普及である。
例えば、NCCAM予算の主要部分を占めるのが、研究実施や資金援助。現在、200機関に
対し、薬草/植物製品、鍼、レイキ、カイロプラクティックなど1,000件を上回る研究
プロジェクトへの支援を行っている。
こうした目標を達成するため、(1)心身の健康、幸福を促進、(2)痛みを始めと
する諸症状、障害、機能不全の操作、(3)特定疾患への多大な影響、(4)疾患予防
および自分の健康への責任を各自に持たせる、(5)特定層の選択的医療問題を削減
――といった厳しい基準を設けている。
今後5年間の戦略計画を発表
NCCAMは発足と同時に、NCCAMの目指すところを戦略化した「5年戦略計画2001-2005」を
掲げ推進してきた。
そして、その5年が終了し、現状および戦略計画を厳密に分析、また医療機関・医学界
の各専門家の意見、世論などを吟味して、さらに5年後の達成を目指した「Expanding
Horizons of Health Care Strategic Plan 2005-2009」を新たに発表した。
新しい戦略計画では、研究運用、CAM研究者のトレーニング、サービス提供機関の拡大、
組織の成長という4つの主要分野を設け、それぞれの目標を設定している。
各分野の目標をざっと以下に紹介する;
研究運用:
[1]マインド-ボディ療法
1)使用する療法の共通および特異的特徴を確認
2)現代医学が生み出せる以上の有効性を促進、増大する手段の発見
3)ストレス関連慢性疾患の負担を軽減するCAM治療の価値を探索
4)健康および幸福を促進、病気の進行を抑制、病気や症状を治療するため、回復力やプラス影響を増大するCAM療法の能力を探索
[2]生物学に基づく療法
1)植物成分の確認と立証
2)選択したCAM製品およびダイエットの基本的な生物学的作用メカニズムを決定
3)選択したCAM製品の薬学的・薬動力学的特性を決定
4)選択したCAM製品および治療法の安全性を確認
5)健康維持、疾患予防のため選択した生物学に基づく療法の有効性を確認
[3]手動式および体を土台にした療法
1)使用する動作のメカニズムを解明
2)選択した治療がどんな疾患に有効性を生むか、また最大の効果を生み出した環境条件を特定
3)効果の可能性を判断するための研究
4)患者の治療前の期待と治療後の満足度を計測し、評価
[4]エネルギー療法
1)物理学、化学などでの実験で使用される基準をエネルギー療法研究にも採用
2)想定エネルギー場の生物学的有効性の理解を促進
3)エネルギー療法提供者と患者の相互作用の過程で発生するものを理解
[5]代替療法制度全般
1)選択した健康状態に対するCAM治療の有効性を実証
2)代替療法全般で使用される様々な形態の治療のメカニズムを解明
[6]国際的研究
1)国際的な協同研究を通して伝統/現地医療システムの理解を促進
2)貴重な伝統/現地CAMの知識や資料の保存に貢献
3)安全で有効なCAMを米国内外でどのように現代医学に統合していくかの理解を促進
――この他、医療機関調査やCAM研究および統合医学の倫理、法律、社会的問題などがある。
CAM研究者のトレーニング:
多くの現代医学研究者がCAM研究に興味を抱き携わっているが、CAMの専門的トレー
ニングを受けた研究者の数は不十分だという。NCCAMは研究トレーニングやプログラム
の外部評価を行い、新しく効果的なアプローチを提言しCAM専門家の協力を得ている。
1)CAM研究の必要性に対応したトレーニングプログラムを作成
サービス提供機関の拡大:
NCCAM設立当初から、より良いインフォームドチョイスが行われるため、CAM研究報告
を社会や医療専門機関へ伝える重要性は認識されていた。
1)CAMに関する情報を医療提供者や公共に知らせる
2)多様なCAM研究者を多くプールする
臨床研究
治療、療法の安全性および有効性を見るため、人に対する研究、臨床研究が重要だが、
NCCAMは現在、100件以上の臨床研究に資金援助を行っている。中には以下のような
ものがある:
(1)首の痛みに対するカイロプラクティック、薬剤療法
首の痛みは良く見られる症状。通常、処方箋薬による治療が行われるが、カイロプラク
ティックなどのCAMを求める患者も増加している。ただ、CAMと処方箋による薬剤療法の
有効性比較を調べる研究は少ない。
(2)膝の変形性関節症に対する気功療法
中国伝統医学では、体内の気の流れが妨げられることにより、様々な不調、病気が起
こってくると考える。気功は、瞑想、呼吸法などを通して、気の流れを正常に戻そう
とするもの。この研究では、気功が膝の変形性関節症に対する有効性を調べる。
(3)乳がん生存者のほてり症状に対する催眠療法
乳がんの生存者にはほてりの症状が現れることが多く、そのため不安や睡眠障害、
生活の質の低下などを引き起こす。ほてりの軽減にはホルモン治療が一般的だが、
ホルモン治療は乳がん再発の危険性を増大することも指摘されている。この研究では、
こうした患者のほてり治療として、睡眠療法の有効性を評価する。