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【 鬱病対策、肥満と同様に急務〜米国抗鬱剤市場の現況 】

National Institutes of Mental Healthの調べによると、デプレッション、いわゆる うつ病に悩む18歳以上のアメリカ人は約4,430万人にのぼるという。この数字は、 アメリカ人口のざっと22.1%を占める。つまり、大人の5人に1人がうつ傾向という ことになる。 また、男女別に見ると、女性は12%、男性7%で、女性患者は男性の2倍 近くになっている。さらに、若年層のうつ症疾患も最近問題になっており、児童の 2.5%、十代の若者では8.3%がこの疾患に悩むと報告され、早急な治療法、解決 策が求められている。肥満と同様、鬱病対策も急務の病めるアメリカの抗鬱剤市況 を報告する。

抗鬱剤、副作用のない自然療法を求める患者

うつ病は、セロトニンなど、脳の細胞間のコミュニケーションを行う神経伝達物質の 欠乏によるものと考えられるが、その原因には生物学的(脳内化学物質、ビタミン、 ミネラル不足)、遺伝・環境的(幼少時代の体験、喪失感、慢性疾患など)要因など が挙げられる。現在、治療の中心となるのが薬剤療法で、脳内化学物質のバランス 維持を主眼としている。

うつ病に使用される薬剤は、主にSelective Serotonin Reuptake Inhibitors=選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)、Monoamine Oxidase Inhibitors(モノアミンオキシダーゼ阻害薬)などがあり、セロトニンや ノレピネフリンの再吸収を抑制する。しかし、こうした抗うつ剤使用では、吐き気、 嘔吐、頭痛、口の渇きなどの副作用が報告され、副作用のない自然のものを求める 患者も多くなっている。

血中のビタミンB濃度が高いほど、薬剤治療の効能が現れる

合成薬剤に頼らない、いわゆる代替療法の様々な研究も盛んになっている。例えば、 ビタミン療法。最近、ビタミンB群の脳の発達、機能への役割に注目が集まっているが、 中でも葉酸やビタミンB12はうつ性疾患との関連が指摘されている。

うつ病患者115人を調べた研究では、血中のビタミンB濃度が高いほど、薬剤治療の効能が現れることが 分かった。また、オックスフォード大学の研究グループが行った研究では、うつ病の 通常治療に加え葉酸を与えたところ、有効性が顕著に現れたと伝えている。アメリカ では、うつ病患者の血中ビタミンB濃度は低いという報告もある。

また、うつ病とビタミンDとの関連性も指摘されている。冬になると憂鬱になる精神的 疾患、季節性感情障害(SAD)は、この関連性をよく表している。体内ビタミン量を 上げる最も安価な方法は日光を多く浴びることだといわれるが、日光浴で作られるビタ ミンDの濃度が冬に下がり、代わりに暗い中でメラトニンが多く分泌されるようになる。

SAD患者には、異常なほどのメラトニン分泌が見られる。つまり、ビタミンD補給がSAD 治療の要になる。オーストラリアなどの研究によると、ビタミンD3が冬の時期、被験者 の気分を高揚させたという。

クロミウム、SAMeが俄然注目を浴びる

また今、俄然注目を浴びている抗鬱素材がクロミウムおよびSAMeである。2004年3月、 National Institutes of Mental Health会合で発表された研究では、うつ病の症状で あるカーボハイドレート・クレイビング(糖質への飢餓感)を抱えている患者はクロミ ウムを摂取することで、その飢餓感、うつ状態の両方が改善されたという。また、113人 を調べたNutrition 21の研究でも、クロミウムピコリネートを600mg補給した場合、 プラセボ と比べカーボハイドレート・クレイビングが目立って改善されたという。

SAMe(S-adenosyl-L-methionine)は、必須アミノ酸メチオニンの代謝物で、遺伝子発現、 細胞膜活動、ホメオスタシス、ホルモン分泌など様々な代謝機能の重要な役割を果たす。 さらに、神経伝達物質のレセプターサイトへの結合を促進させ、セロトニン、ドーパミン、 フォスファチジルセリンを増量すると考えられている。

The Agency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)が行った研究では、うつ病患者47人にSAMeを与えプラ セボと比較したところ、プラセボの有効性を上回り通常の抗うつ剤に匹敵する成果を 挙げたことが分かった。用量として、200〜400mgを1日1〜3回摂取することが薦められる。

オメガ3脂肪酸も鬱改善に有望

その他の栄養素も相次いでうつ病研究の材料となっている。必須脂肪酸の中でも有名な オメガ3脂肪酸。特に、魚オイルに含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペン タエン酸(EPA)の研究が進んでいる。うつ病患者とその血中のDHA値低下との関連性が 取りざたされているが、DHAの補給治療は主に、軽度から中程度のうつ病患者へ有効性が 高いとされている。

Baylor Collegeの研究では、DHAは重度のうつ病には影響を与えない と指摘する。また、EPAに関しては、抗うつ剤が効かなかった患者にEPAを与えたところ、 症状の改善が見られたという研究報告がある。また、EPA補給に関する、双極性感情障害 患者を対象に4週間行われた対照比較、二重盲検研究では、プラセボと比べEPAは同疾患 の再発で改善を示したことが分かった。

トリプトファンに近い5-HTPに関心集まる

また、セロトニンの合成に関与するのが5-hydroxytryptophan(5-HTP)といわれる。 抗うつ用などのサプリメントとして、かつて人気のあったアミノ酸のトリプトファンは、 1989年、米食品医薬品局が販売禁止にした。これは、アメリカで昭和電工が開発した L-トリプトファンサプリメントを使用し原因不明の呼吸困難、皮膚疾患などを訴える 患者が急増したことに端を発するもの。現在は、トリプトファンに非常に近い5-HTPに 関心が集っている。

西アフリカ産植物のGriffonia Simplicifoliaから抽出される5-HTPは抗うつ剤、 fluoxamineとの比較研究で、匹敵する有効性を持つことが指摘された。また、これまで の研究17件を分析したところ、13件で5-HTPの有効性が再確認された。用量としては、 まず食事と共に25mg/日の摂取から始め、2週間後から75mg/1回の食事まで量を増やす よう薦められる。その他のアミノ酸では、L-phenylalanineが研究対象として人気が ある。

ギンコビロバ、カバカバ、ラベンダーなど抗ストレスハーブとして人気

ハーブの分野でも、うつ病対策として多くのハーブが研究材料に使われている。血液の 流れを良くすることから認知力の改善が指摘されるギンコビロバは、同様にうつ病の 症状でもある安眠障害への有効性が示されている。

カバカバは、抗不安感作用ハーブとして有名で、ある研究ではプラセボの有効性を上回 るという指摘がある。45歳から65歳の閉経期後の女性を調べた研究では、カバカバを 中心にブラックコホシュ、大豆、ホップ、ヴァレリアンのミックスカプセルを就寝前に 与えたところ、睡眠の状態が改善したことが分かった。

また、ラベンダーも不安感を取 り除くハーブとして注目を集めている。ネバダ大学が行った研究では、ラベンダーが 末期がんでホスピスを受けている患者の不安感と痛みを緩和したことを伝えている。 新顔として、フラボノイドのchrysin(フラボンX)が抗不安薬として紹介されている。 Chrysinは、パッションフラワーから抽出され、anxiolytic(抗不安化合物)に変換 される。用量として、500〜1,000mgを1日1〜3回、総量500〜3,000mgの摂取が薦めら れる。その他、アシュワガンダ?ゴッツコーラ、サフラン、ターメリックなどの効用が 分析されている。

セントジョンズワート、マスコミのネガティブ報道で売り上げダウンも根強い人気

そして、極めつけの抗うつハーブとして有名なのがセント・ジョンズ・ワート (Hypericumperforatum)。臨床研究23件の分析でセント・ジョンズ・ワートの有効性が 指摘(1996年)され、セント・ジョンズ・ワート成分、hyperforinの濃度別、プラセボ対照 研究で、高濃度成分はプラセボの有効性を上回ると指摘(1998年)など成果を示す 多くの研究報告が行われるや一躍売り上げを伸ばし、ハーブ業界ではこれまでにない ヒット製品となった。

しかし、Journal of the American Medical Associationに 掲載された記事では、セント・ジョンズ・ワートの長期的有効性を評価した結果、セント ・ジョンズ・ワートは、医薬品の代謝に関わるcytochrome P450の活動を変え、薬物と 相互作用を起こす恐れがあると指摘。さらに、セント・ジョンズ・ワートは、重度の うつ病には有効性を示さないとの研究結果が発表されるなど、否定的な報告が続いた。 これによって売り上げは多少下降したが、今なお根強い人気を保っている。

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