「健康、環境、次世代のために、オーガニック商品を」―米国の大手スーパー
、ホールフーズマートの大型掲示板に大きく書かれたメッセージだ。アメリカ
では9月はオーガニック月間。各地の健康食品店などでは、オーガニック啓蒙
のさまざまなイベントが展開されている。遺伝子組み換え食品、狂牛病、とり
インフルエンザと、食品への不安が高まる中、売り上げを着実に伸ばしている
オーガニック商品。最新市況を報告する。
オーガニックはビリオン・ビジネス
オーガニック・トレード協会(OTA)の2004年メーカー調査によると、食品
および非食品合わせてオーガニック商品の2003年売り上げは、前年比約20%
アップのおよそ108億ドルに達した。オーガニック食品のみの同年売り上げ
は、前年比20.4%増の約103億8000万ドル。パーソナルケア商品、サプリメン
ト、ハウスクリーニング商品、花、ペットフードといった食品以外のオーガ
ニック商品は、前年比19.8%増の約4億4000万ドルだった。
オーガニック食品の売り上げは1997年以来、毎年17〜21%伸びており、一般
食品が年間平均2〜4%とほぼ横ばい状態なのに比べ、順調な伸び率を示して
いる。今のところ、食品売上総額のうちオーガニック食品の占める割合は2%と
わずかだが、食品業界が最も注目する成長株だ。
オーガニック食品の中でも売れ筋カテゴリーの1位は、フルーツとベジタブルで、
売上総額の約42%を占めているという。ただし、2003年の話題をさらったヒット
カテゴリーは、オーガニックのミート、チキン、サカナ。オーガニック食品市場
のわずか1%とまだまだニッチマーケットの域を出ていないものの、昨年の売り
上げ伸び率はなんと78%と、ほかのオーガニック商品の売れ行きを大きく引き
離した。
メインストリーム市場に浸透、背景に食品不安
また、同メーカー調査で、2003年のオーガニック食品売上総額の40%強が、一般
スーパーや会員制量販店などの売り上げによるもので、オーガニックが健康食品
店という特殊マーケットの枠を出て、メインストリーム市場にすっかり浸透して
いることもあらためて強調された。
リサーチ会社ミンテルが8月に発表した調査によると、アメリカ人の44%がいつも
ではないがオーガニック商品を購入しており、年代別では、18歳から24歳の若者
層と55歳から64歳の中高年層で購買者が増えているという。ちなみに常時購入して
いるというハードコア購買者は10%ほど。
同調査は、食品への不安感がオーガニックブームの牽引になっていると結論付け
ている。
食品業界、処方箋フードで医療現場へ進出
ところで消費者はどんなオーガニック商品を買っているのか?
2003年ホールフーズマーケットのオーガニックフード・トレンド調査によると、
(1) 農産物 72%
(2) パン 30%
(3) 豆乳、ジュース(乳製品以外の飲み物) 29%
(4) スープ、パスタなどパッケージ商品 24%
(5) 乳製品 23%
(6) ミート 19%
(7) 冷凍食品 17%
(8) 調理済食品 12%
(9) ベビーフード 7%
消費者がこういったオーガニック食品を好んで買うのは、もちろん健康を意識
してのこと。アメリカ人の5人に3人がオーガニック食品はそうでない食品より
も体に良いと信じているという調査報告もあるほどだ。
とはいえ、「食と健康」の概念が浸透しているのはなにも消費者ばかりではない。
医療現場でも浸透している。プリベンティティブ・メディシン誌に掲載された
最近の調査報告によると、医者の25%が病気の予防および治療のため、患者に
食生活のアドバイスをしているという。
これに目をつけたのが食品業界。ヨーグルト、大豆製品、オメガ3を豊富に含
んだ魚――など、健康へのベネフィットが話題になっている商品を、医者を
介して売り込もうという戦略だ。
中でもオーガニック食品は、医者が患者に勧める「処方箋フード」の定番に
なっているという。
オーガニックミート、今後4年間に毎年、30%の伸び率が予想
そして、いま最もホットなアイテムは、オーガニック・ミート。低炭水化物
ダイエット・フィーバーと、狂牛病の不安から、オーガニック飼料で育ち、
ホルモンと抗生物質フリーのミートを求める消費者が増えている。
OTAの調査によると、オーガニックのミートおよびチキンの売り上げは2003年、
77.8%の伸び率を記録。今後4年間に毎年、30.7%の売り上げ伸び率が予想
されている。現在、オーガニック商品の中で、最も急速に売り上げを伸ばして
いるカテゴリーだという。
そこで、問題になっているのが、供給が需要に追いついていない点だ。ホル
モンフリーなどの理由から、オーガニックものを育てるには通常よりも時間
とコストがかかる。
需要を読み誤って過剰生産すれば値段が下がり、もとがとれずに生産者サイド
にとっては死活問題だ。加えて、昨年12月にアメリカ国内で狂牛病が発生する
までは、需要は伸びてはいたものの決して安定はしていなかった。そこで、
安全路線から控え目生産していたところ、「アメリカで狂牛病発生」のヘッド
ラインで、需要が急上昇。今のところ、供給が需要においつくには数年かかり
そうだという。
遺伝子組み換え作物による花粉汚染で、「オーガニック離れ」の農家も
オーガニック・ファーミング・リサーチ・ファンデーションが7月に発表した
調査報告によると、オーガニック農作物の売り上げ予報は「晴天」。需要が
高ければ、オーガニックに切りかえる農家が増えているのではと思いがちだ
が、実は「オーガニック離れ」を考えている農家は少なくないという。
理由は、遺伝子組み換え作物による汚染だ。農家がオーガニック統一基準を
どんなに忠実に守っていても、遺伝子組み換え作物の花粉が風や昆虫によって
運び込まれ、オーガニック農地がいったん汚染されたら、すべては水の泡。
せっかく手間隙かけて育てても、オーガニック作物の価値はなくなる。汚染を
防ぐため、最大の収穫を犠牲にし、わざわざピークシーズンを外して耕作した
り、汚染が疑われれば、耕作地をかえる――そんな努力が常に強いられる。
しかも、遺伝子組み換え農業が盛んな地域では、オーガニック農家が汚染防止
の努力をしたところで、消費者は「メッカ産」というだけで、オーガニック
基準をパスしていても買い控える。農家にしてみれば、割が合わないというわ
けだ。
こういった問題を解決するには、小売店や消費者が、オーガニックものを保護
するための規制強化を求めるロビー活動を活発におこなうべきだという声が
あがっている。