1997年、The Nutrition Committee of the American Heart Associationの音頭取
りで「Prevention Nutrition:Pediatics to Geriatics」と題するコンファレンスが
開催され、American Cancer Society、American Dietetic Association、American
Academy of Pediatrics、Division of Nutrition Research Coordination of the
National Institute of Health、American Society for Clinical Nutritionの代表
者が一堂に会し、現代のアメリカ人が抱える心臓病やがんなどの健康問題と食という
要素の関連を話し合った。席上、各機関が公表している「食のガイドライン」を再検
討し、生化学、疫学、臨床的な研究を基に、予防医学的見解から意見一致できるガイド
ラインの作成を約束。今回、統一ガイドライン「Unified Dietary Guideline」としてまとめ
られた。
がんなど上位を占める疾患と栄養素の役割を再検討
コンファレンスの主な目的は、膨大な数の研究資料を基に、がん、アテローム性動
脈硬化、肥満、糖尿病といったアメリカの死亡原因の上位を独占する疾患と栄養素と
の関連性を再検討することだが、
細かくは――
@主要慢性疾患の発病における栄養素要因の役割でこれまでに分かっている事実を再検討する
A広範囲な慢性疾患に適応する総括的な予防的栄養素対策をまとめあげる
Bアテローム性動脈硬化、がん、糖尿病、肥満予防での炭水化物、たんぱく質、脂肪、ビタミン、抗酸化剤、ミネラル、食物繊維といった栄養素グループを共通に薦める概要をまとめる
――などとなっている。
また、ガイドラインで対象となる集団は一般的アメリカ人だが、@高齢者A女性B子どもC少数民族といった疾患に対する抵抗力が弱い集団へのガイドラインもまとめている。
発がん原因の3割は食関連が関与
がん、アテローム性動脈硬化、肥満、糖尿病の4大疾患と食を含む栄養素との関連
性は、膨大な数の臨床的疫学的研究で明らかにされている。例えば、北米での発がん
原因の30%を食関連の要素が占めると推測される。
食関連の要素といえば、高い脂肪摂取量、特に飽和脂肪を多く摂ると、結腸、前立腺、
肺がん罹患と関連づけられている。また、食と肥満、そして疾患との関連は明らかに強い。
反対に、食物繊維や複合糖質を多く摂れば結腸がんや冠状動脈性心臓病(CHD)の罹
患率を下げることが指摘されている。
さらに、ビタミンAやC、Bといった食品のある成分や
他の抗酸化成分は発がんの危険性を減らすばかりでなく、糖尿病の合併症やアテローム
性動脈硬化の罹患率も下げることが研究で明らかにされている。
塩分摂取量は6g以下がベスト
主要疾患に対する共通の栄養素手引きを簡単にまとめたものは、次の通り。
@飽和脂肪は、総カロリー量の10%以下、
A総脂肪摂取量は総カロリーの30%以下、
B多価不飽和脂肪摂取量は総カロリーの10%以下、
C一価不飽和脂肪摂取量は総カロリーの15%以下、
Dコレステロールは300mg以下、
E炭水化物摂取量は総カロリーの55%以下、
F理想体重に到達並びに維持するため総カロリー量を調整、
G塩分摂取量は6g以下に抑える。
以上の手引きを実行するためには、厚生省や農務局が発表している「食のピラミッド・ガイ
ド」に従うと良いとしている。
この目安として@様々な種類の食品を食べる、A理想体重維持のため食と運動のバランス
を保つ、B穀類、野菜、果物を多く摂る、C糖分は適量――などが挙げられている。
子供達はカルシウム、亜鉛などミネラルの摂取が不十分
また、子ども、女性、高齢者といった疾患に罹りやすい集団に対するガイドラインは次の
ようにまとめられている。
■ 子ども:
Pathobiological Determinants of Atheroscierosis in Youth(PDAY)
の調査によると、10代終わりの成長段階の後半に入った子どもたちは、冠状動脈心臓
病の危険要因を大人と同じように抱えているという。例えば、コレステロール値の上
昇、糖尿病、運動不足、喫煙が危険要因に挙がっており、大動脈に脂肪の傷を作って
いく。子ども時代、それも幼児のうちから、健康意識に根ざした食生活やライフスタ
イルを築いていくことが後の生活に重要であると最近の多くの研究は明らかにしてい
る。
この20年間で、アメリカの子どもたちが摂る飽和脂肪やコレステロールの量は減
少傾向にあるが、Infant Nutrition Survey(1994年)並びにUSDA Nationwide Food
Consumption Survey(1987‐88)によると、5歳以下の子どものすくなくとも23%は、
カルシウムや鉄分、亜鉛が推薦標準量(RDA)の3分の2以下しか摂取できていないと
いう。
政府機関の公共方針として、今後@保健体育や給食プログラムを通して、現在
まであるいは将来的に解明される事実を実行していく、A医療関係者などの助けを借り
て、慢性疾患に罹患する危険性が高い家族を確認していく――などを実施していく。
■ 高齢者:
アメリカ人の死因上位を占めるCHD、がん、糖尿病は高齢者にも襲いかかる。65歳以上
の男女の10年間での心臓病罹患確率は、30歳から34歳までの男女と比べ10倍が指摘
されている。高齢者の心臓病危険要因は子どもグループとほぼ同じで、脂肪過剰症、
喫煙、低いHDL(「善玉」コレステロール)値、糖尿病、肥満が挙げられる。
特に高齢者の肥満治療は、エネルギーの摂取と放出調整がうまく行われないため困難
と言われる。体重調整、植物系食品を多く摂取、飽和脂肪を制限するなどは、高齢者の
食生活に特に必要。また、栄養不良、少ない食事量、長期の薬剤治療による影響などが、
特に高齢者について懸念される要因である。
政府機関は@医療機関と食品産業、American Association of Retired Persons、保険
会社、敬老施設、さらに地方自治体との協力体制を強化、A高齢者用の全米栄養素デ
ータベースの向上――などを方針として実施していく構え。
■ 女性:
年齢にかかわらず、健康な女性並びに慢性疾患に罹る危険性を持つ女性のどちらも対
象となっている。食との関連で、女性層に特に問題となるのが肥満。例えば、調査による
と肥満女性は、卒中、心臓病、糖尿病、アテローム性動脈硬化、がんといった疾患での
罹患率、死亡率が増加しているという。20歳以上の35%以上が太りすぎであり、特に過半
数は自分が太りすぎていると思い込んでいるという。
若い女性の間では、過食症や拒食症に陥りやすい。さらに、ボディー・イメージから来る
精神障害を起こしやすい。年をとるにつれ、心血管系疾患や乳がんが増加する。CHDも
女性の主要死因を占め、特にホルモン治療を受けていない前更年期の女性は危険性が
高くなる。
女性のCHD患者は男性より死亡率が高いという。月経開始期並びに更年期後半の女性
に乳がんの危険性が増大し、それも特に不飽和脂肪、動物性たんぱく質、総エネルギー
の摂取量が多い国でかなり見られる。成人女性の20%以上に高血圧症が見られるが、男
性に比べると塩分摂取の制限でかなり効果が上がる。高齢の女性には骨粗しょう症が、
妊娠適齢期の女性には鉄分不足などが見られる。特に妊婦はカルシウム、鉄分、葉酸と
いった栄養素を強化する必要がある。
政府機関は、公共方針として@婦人科などを通して、ガイドラインの実施を薦めていく、
A専門機関、報道機関、女性関連産業の協力を得て、食のガイドラインの宣伝を大々的
に行っていく。