昨年12月末、米国で初の狂牛病(BSE=牛海綿状脳症)に感染した牛がワシン
トン州で発見され、食品関連機関や関連業界に動揺が走った。サプリメント
業界ではカプセル原料やコンドロイチンなど健食素材が牛由来であることから、
売上げへの影響が懸念されている。BSE問題で揺れる米国サプリメント業界の
舞台裏を追う。
※米国では、健康食品をダイエタリーサプリメントを呼ぶが、以下サプリメントと略して表記
今年1月末に、牛の器官の使用禁止範囲をさらに拡大
これまで米国は、狂牛病感染を防ぐために施した処置に強い自信を示して
いた。つまり、1989年に始まった輸入規制、BSE汚染を確認するための調査、
1997年に施行された家畜飼料禁止令(牛などの反芻性家畜に哺乳類プロテイン
飼料を与えることを禁止)など、対策は万全としていた。
また、サプリメント業界については、2000年にFDA(米食品医薬品局)が、
狂牛病の発生国から輸入した動物部位の使用をやめるよう警告を発するなど、
狂牛病対策のための防護壁を幾重にも張り巡らしていた。
しかしながら、昨年12月末、ワシントン州でのBSE汚染牛発見で、さらに新
たな防護壁の構築・強化を迫られることとなった。
1月26日に発表された米政府機関の狂牛病への対応策によると、まず食品
(サプリメントを含む)や化粧品原料の牛の器官の使用(使用禁止範囲を
さらに拡大)が禁止されることとなった。
また、現在まで一部許可されていた、牛など反芻性家畜への飼料に関連する
製造工程も全面的に禁止された。
FDAでは、こうした対策を実行するため、2つの暫定措置最終案を発表、公聴会
にかけた後、直ちに施行する意向を示した。
暫定措置の内容については以下のようになっている。
■下記に関する食品(サプリメントを含む)、化粧品への使用禁止:
(1)“ドウナー牛”(歩行困難となった家畜)から抽出した原料
(2)屠殺される前農場で死亡した牛から抽出した原料
(3)生後30ヶ月以上の牛の脳、頭骨、目、脊髄および年齢や健康体かどうかに関係なく、全ての牛の小腸や扁桃のような最も汚染リスクの高い部位など。
■現行の家畜飼料禁止令を拡大するもので、「タンパク質源として哺乳類血液
および血液製品を牛などの反芻性家畜に与えることができる」という現行ルール
での免除事項を消去し、「血液および血液製品の使用禁止」に改訂。
また、反芻性家畜の飼料含有成分として家禽類寝わらの使用を禁止する。この
寝わらは鶏舎で収集された敷き藁、羽、糞などが成分となっている。家禽類の
エサには、牛の肉骨粉など、反芻性家畜用飼料では禁止となっているプロテイン
が含まれている恐れがある。
さらに、飼料含有成分として食事残留物の使用を禁止する。残留物には、残った
肉や肉切れが含まれている恐れがある。設備、機械、生産ラインを充実させる
ことにより、反芻性家畜用飼料とそれ以外の動物飼料とが混ざり合う機会を最
小限に抑える。
FDAでは、こうした措置を徹底させるため、2004年度のステップとして飼料製造
業者への検査を強化するとしている。
メラトニン、コンドロイチンなど売れ筋商品が牛由来原料を使用
サプリメント産業では、今回のBSE騒動にどのような策を講じているのか。
現在、売れ筋のメラトニンやコンドロイチンなどのサプリメント製品には動物
部位原料が含まれているが、政府がどのような規制を発令しても、現在多量に
販売されているサプリメントに含まれている動物部位原料の原産国を特定する
のは困難とされている。
同産業界で“glandular”製品と呼ばれるサプリメントが、牛の脳や胸腺、精巣
などが原料となっており、脳機能や生殖能力の向上を謳い販売している。
また、メラトニン、コンドロイチンなど売れ筋商品にも牛の気管が使われている。
ワシントン州の病院が行った調査では、ワシントン州郊外の健康食品店を調べた
ところ、牛の脳や脾臓、肺、肝臓、すい臓、脳下垂体、副腎など器官を原料に
しているサプリメントが多く見つかっている。
売り上げに直ちに影響は出ないとの予測も
サプリメント業界も狂牛病に伴う消費者の反応に敏感にはなっているが、売り
上げに直ちに影響が出るサプリメント製品は少ないだろうとみている。
というのも、動物臓器や腺組織を含有するサプリメントは製品全体の0.5%
以下で、直ちに市場から製品を引き上げるようなことはないとみられるためだ。
ただ、FDAなどの新しいルールによって最初に影響を受けるのは、“glandular”
製品であると指摘される。サプリメントによってはパウダー、乾燥など様々な
タイプの牛の腺組織を含有しており、摂取することによって人の腺組織と同じ
ような機能をもたらすといわれる。例えば、甲状腺ホルモン不足の患者は
“thyroid glandular”を摂取することもある。
サプリメント業界関係者は、業界全体からみて“glandular”製品の占める割合
が少ないとしても、消費者の信頼性を失わないために牛の部位を原料にした
サプリメントから手を引くであろうとみられている。原料の調達を牛から豚や
チキン、魚へ移行する企業が増えることが予測されている。
サプリメント業界も独自のタスクフォースを設立し、消費者の不安を取り除いて
いこうとしている。また医薬品の基準を設定する公的機関、US.Pharmacopeia
などもサプリメントに規格証明を与えるプログラムの実行を計画している。
さらに、The National Nutritional Foods Associationでは1999年7月、
サティフィケーションプログラムを開始し、第三者の検査機関を使って生原料や
ラベル表示確認工程などのテストを行うとしている。