米国で代替医療に対する医師達の態度に変化が起きている。これまでの「関心もないし、
もちろん患者にも勧めない」から「もっと効果を裏付ける科学的な研究をやってほしい」と、
その効用に注目し始めている。積極的に取り入れているという医師が増え、代替医療コー
スを設ける医科大学もでてきたほどだ。現在、米国の10人に4人がなんらかの代替医療を
試したことがあるといい、1990年から利用者は50%も伸びている。このところの医師達の
態度はそんな現状に突き動かされての「心境の変化」といえるだろう。米国の医師達が現
在の代替医療をどう見ているか、心変わりさせた現状とは一体どのようなものか。米国代替
医療の近況を報告する。
現代医療と代替医療の共存に前向きな姿勢を示す医師は多い
メリーランド州、コロンビア特別区、バージニアで、内科医180人を対象に代替医療18種
類について行った1995年の調査によると、内科医の70%から90%がダイエット、エクソ
サイズ、カウンセリング、睡眠療法、精神療法といった代替療法をきちんとした医療として
認めている、と答えているという。
大半は患者に、医師の資格をもたないが、こうした療法をやっているセラピストを紹介する
か、または自ら治療に取り入れているという。しかし、代替医療の中でもホメオパシー、ネイ
ティブアメリカンや東洋の医学は、「医療として認めかねる」と否定的にとられており、代
替医療と一口にいっても「なにもかもOK」というのではなく、選り好みが行われているのが
現状だ。
70%がいろいろな療法についてきちんと勉強したいという回答は、メインストリームの医療
として認められつつあることを裏付けている。最高の医療を目指すため、主流となっている
現代医療と代替医療の共存に前向きな姿勢を示す医師は多い。
▼内科医の認める代替医療と実際の利用頻度
(順位は、医療として受け入れられている割合の高いものから)
代替医療名 医療として認める(%) 利用頻度(%)
・カウンセリングと 97.2 30.8
精神療法
・バイオフィードバック 92.5 53.8
・ダイエット、運動 92.1 96.6
・行動療法 91.5 58.9
・催眠療法 73.7 30.8
・マッサージ 57.5 35.1
・針 55.9 13.5
・カイロプラクティス 48.9 27.2
・菜食主義 45.9 22.2
・アート療法 39.1 12.9
・指圧 38.4 12.9
・祈り療法 32.8 30.8
・ホメオパシー 26.9 5.3
・ハーブ 22.6 6.9
・ビタミン大量療法 21.1 13.5
・東洋医学 18.3 1.8
・電磁気療法 17.5 7.1
・ネイティブアメリカン 16.9 3.5
医学
▼トレーニングの状況と知識
(順位は、トレーニングへの関心の高いものから)
トレーニングを受けた 知識がある 関心あり
・ダイエット、運動 91.3 96.4 92.5
・行動療法 79.8 82.7 89.1
・バイオフィードバック 67.2 82.8 89.1
・針 22.1 62.7 79.9
・催眠療法 39.8 59.9 79.2
・マッサージ 37.2 61.8 79.2
・メガビタミン 22.8 48.2 78.1
・菜食主義 39.2 57.3 77.0
・指圧 16.3 33.6 74.4
・祈り 36.8 49.2 72.4
・ハーブ 12.9 25.5 71.7
・アート療法 17.4 33.6 69.7
・カウンセリング 86.1 91.9 69.4
・ホメオパシー 12.9 30.0 69.0
・カイロプラクティス 26.3 67.3 68.4
・電磁気療法 14.7 21.8 60.0
・ネイティブアメリカン 8.2 12.2 50.0
と精神療法
97年調査では前回(90年)に比べ、「代替医療」の利用率47%アップ
これまでタブー視していた内科医たちの関心を煽った現状をみてみよう。
1997年に代替医療を利用した人は10人につき4人。米国医療協会誌によると、同年に
212億ドルが代替医療費として支払われている。
1997年、ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerのデービッド・M・アイゼンバ
ーグ博士が2055人を対象に電話で行った調査によると、代替医療医師を訪れた患者は
前回の調査(90年)から47%増加。1990年の推定4億2700万件から97年には推定6
億2900万件に膨れ上がった。これは、97年に患者が主治医(現代医療)を訪れた推定
3億8600万件を大幅に上回っており、利用頻度の高さを物語っている。
疾患に対する利用状況を見ると、腰や首の痛み、頭痛、関節炎といった慢性疾患への利
用が目立つ。また、種類別では、ハーブ、マッサージ、ビタミンの大量投与、ホメオパシー
といった療法の利用率が急激に高まっている。
性別では女性の利用者が男性を上回っており、年齢では35歳―49歳層が最も多く、高
学歴、高収入層の利用も目立つ。また、健康志向の高い西海岸が全米の中で最も盛ん
な地域となっている。
医者と患者との間で「代替医療」の情報交換が欠如
しかし、このように代替医療が一般そして既存医療の世界でも市民権を得つつある中、「代
替医療も試している」と医者にきちんと伝えている患者は相変わらず少ない。医者は「代替
医療のことを話して、それを治癒への保証ととれては困る」、「患者と話すには効き目を立証
するだけの情報が足りない」と、進んで語ることを避け、患者は「医者を怒らせてしまうのが不
安だから」と内緒にする。97年には1500万人が処方箋薬とハーブや大量のビタミンを同時
に飲んでいたと推定されており、今後も相互作用の悪影響が心配されている。
アイゼンバーグ氏は「代替医療市場はますます多様化し伸び続けている。こういったトレンド
は、きちんと科学的な研究に裏付けられなければならないし、臨床的判断も必要だ。そして、
今のような『don't ask and don't tell』という風潮をすぐにもなくすべきだ」と強調している。
アラバマ大学の化学者は今年の3月23日、米国ケミカルソサエティーの全国集会で、人気の
栄養補助食品「chromium picolinate(クロムニウム・ピコリネート)」にガンを誘発する危険があ
ると報じた。DNAを破壊し、場合によっては遺伝子異常やがんを引き起こすという。どの代替
医療にどんな危険があるのかはまだはっきりとわかっていない。また、カイロプラクターにだけ
通っていたためにがんを発見しそこねて死亡したというニュースも報じられた。こういったケー
スから、きちんと医者と相談しての利用が好ましいといえるだろう。