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【 プラセボという名の代替療法 】

「placebo」(プラセボ/偽薬)とは、新薬活性成分や治療技法などの有効性確認を目的 とし、有効度を比べる材料として対照的に用いられる不活性の物質。「dummy pill」とも 呼ばれ、「sugar pill」(砂糖)が使われることが多い。 このプラセボも用い方一つで、不安感、憂鬱感、緊張など精神的ストレスの緩和、また頭 痛、咳、一般的な風邪、関節炎といった疾患の痛み軽減に力を発揮するという研究報告 が次々と発表されている。また逆にプラセボにより吐き気やめまい、不眠などの副作用が 現れるとの報告も増えている。本来何の変化ももたらさないはずのプラセボがなぜそのよ うな作用をもたらすのか。「placebo effect(プラセボ効果)」。専門家たちは、こうした現象 の研究に力を入れ始めている。

活性物質の含まれていないプラセボで、患者の35%が症状緩和

placebo(プラセボ)の語源は、ヘブライ書の詩篇116の中にあるといわれる。医学辞書に 初めてこの言葉が現れたのが1785年、「平凡な手段あるいは薬剤」と定義されている。 臨床試験でPlaceboが使用される場合、一般的に被験者も医療関係者にも試験される 医薬品とplaceboが誰に与えられるかは知らされない。また、placeboにはシュガー・ピル などが使われるように、活性成分は含まれておらず基本的に疾病を治療することはない。

1955年、ヘンリー・K・ビーチャー医師が初めてplacebo effect(プラセボ効果)説を発表し Journal of the American Medical Asociation に掲載されたが、この時の報告では、同医 師が様々な臨床試験15件を分析したところ、活性物質の含まれていない薬剤を投与され た患者の間で35%に症状緩和が見られたという。

だが、後にドイツの研究者がビーチャー 医師の分析した臨床試験15件を再調査し、同医師の出した結果とは数点で異なる報告を 行っている。例えば、数件ではplaceboが使われていなかったこと。また35%の症状緩和は あったが、反対に40%の悪化も見られたこと、など。またこの研究者はビーチャー医師の発 表以後に明らかにされた研究800件についても分析したが、placebo effectのはっきりした 裏づけは得られなかったとしている。

プラセボの服用を止めた後も短期間効果は続いた

しかし、その一方でplacebo effectの作用をビーチャー医師が発表した35%より大きいと指 摘する報告もある。例えば、ヘルペス感染に関する研究で、当初治療を受けた患者の85% に症状緩和が見られたが、その治療はプラセボによるものであるとされた。さらに、placebo effectは手術でも現れおり、手術を受けた(後で単なる皮膚の切開術であることが分かって いる)アンギーナ患者の胸の痛みがかなり緩和した例もあるという。

また面白い点は、プラセボの服用を止めた後も短期間効果は続いたことだ。さらにClinical Psychology(1993年7月号)誌に掲載されたサンディエゴ州立大学並びにミシガン大学の 分析調査では、Placebo effectの作用は患者や医師の態度で70%まで上がることが指摘さ れた。

プラセボによる治癒例は疾病の心身相関を証明

研究者によると、Placebo effectを左右する要素は幾つかあるが、その一つに「期待」(多く の場合ポジティブ)が挙げられる。これは、他に信頼、暗示、希望といった類似要素を伴い、 心と体の関連性を証明するものでもある。

この要素にさらに影響を与えるものがある。例えば、医療関係者の白衣、治療に関係する 医療関係者が持つ資格や経歴、特別な医療機器の有無、時には錠剤の色(青い錠剤よ りも赤い方が有効性が高い)も大きく関連してくるという。これは全て、被験者の医療への 信頼と「効くかもしれない」という期待から来るものである。

被験者あるいは患者のパーソナリティとplaceboへの反応とには、正負どちらにおいても 少なからぬ相関関係があることを研究が明らかにしている。placeboで症状緩和などポジ ティブな効果を得る被験者を「placebo reactor(反応を示しやすい人)」と呼ぶ研究者もい ればplaceboから副作用を受ける患者に対し同じ用語を使う研究者もいる。どちらにしても、 影響を受けやすい性質を持つ患者がplacebo effectを示しやすいが、どちらを示すかにな ると患者の性格や態度、周囲の環境が関わってくる。

例えば、急性の痛みを訴える患者が薬剤(この場合placebo)にポジティブな態度を示し、 また与える医師が自信たっぷりといった態度で患者に接した場合、症状緩和にポジティブ な効果がはっきり現れるという。逆に薬剤を危険な化学物質と考える患者で、また薬剤を 与える医師がつっけんどんであいまいな態度をとった場合、前者とは異なる状況が生まれ るという。

抗鬱剤効果、50%がプラセボ効果によるものとの報告も

今日意図的なplacebo使用(研究使用に対して臨床治療での使用は稀)には、有害とな る場合が幾つかある。
例えば、@医師が患者をだますため、患者と医師との関係に負の影響が現れる恐れがあ る。医師は患者が事実に気づかないよう、余計防御的にならざるを得ない。

万が一事実が露見した場合、患者は医師に裏切られたと感じ、その後の治療に支障をきたす恐れがあ る、A医師が患者の反応を誤って解釈する恐れがある。特に反応が、体自身からくるもの でなく神経的に誇張されたものだと結論付けてしまうケースも。

現在、placebo effectに関係して論議を巻き起こしているのが、鬱病患者への抗鬱剤投与、 あるいは心理療法である。1998年、American Psychological Association(APA)定例会合 で発表された報告によると、薬剤効果の50%がplacebo effectによるものだという。

コネチカット州研究者グループが鬱病患者を対象にした1974年から95年までに行われた研究39件 (総患者数3千252人)の分析調査で、研究に使われた抗鬱剤は、Prozac、Zoloft、Paxilで、 研究は無作為で、治療を受けない患者との対照で行われていたが、これによると、薬物に 対する反応のあった27%のみが実際の薬剤効果で、50%が薬剤を投与されたという心理的影 響(placebo effect)による反応であると、抗鬱剤の有効性に疑問を投げかけた。しかし一方 で同報告に対しては、分析方法の正確さに疑いを表すなど非難する声も上がっていること も事実。

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