米国で、遺伝子組み換え(GM)食品が登場して10年にも満たないが、今では
店の商品棚に並ぶ食料品の3分の2は遺伝子組換え食品か、あるいは遺伝子操作
が行われた原料を使っているものと推定されている。野菜に穀類、そして
スナック菓子、さらにベビー用ミルクに至るまで広範に浸透している。
人体におよぼす影響への検証が不十分なことから、欧米をはじめ世界各地で
排斥運動が起こり、未だ継続中だが、一方で、遺伝子組み換え作物の花粉飛散、
運送の際の意図せざる混入などで、現実には遺伝子組み換え汚染が急速に進行
しているものとみられている。
消費者サイドに立ったGM食品の開発試みるも、安全性に疑問符
遺伝子組み換え(GM)はそもそも、寒冷や害虫に耐性のある作物を作りフード
・サプライの促進を図る目的で研究開発された。当初、アレルギーなど人体に
およぼす影響が未解明なことからGM食品は一般消費者からの反発を招いた。
現在、これまでの生産者サイドの恩恵ばかりを優先したことが反発を招いた
との見解から、開発企業は消費者メリットを前面に出し、受け入れられるよう
軌道修正にやっきだ。
食品の「栄養強化」といった側面からβ-カロチンなどのカロチノイドを豊富に
含む米やカフェインフリーの紅茶葉などの開発も試みている。
だが、こうした生化学的に手を加え、出来上がった食品は、“Franken Foods”
(フランケンフーズ:人造人間フランケンシュタインに例えたもの)と呼ばれて
いる。
遺伝子組み換え作物の安全性について、米食品医薬品局(FDA)や米農務省
(USDA)などの政府機関は、「遺伝子組替え食品は、一般の作物や食品と同等
に安全である」という見解を取り続けるが、長期の食経験がないGM食品に、一般
消費者や専門家からの安全性を疑問視する声が後を絶たない。
有機作物栽培者や利用者、花粉で広がる遺伝子組換え汚染を懸念
米国では、GM開発企業により、穀物の大豊作は遺伝子組み換え技術によってもた
らされると喧伝されているが、現在最も多くGM技術が用いられているトウモロコ
シで次のような事例がある。
遺伝子操作で有名なBtコーン種の花粉をかけた葉を蝶の一種、オオカバマダラの
幼虫に食べさせたところ、44%が死亡したという。この結果を受け、欧州委員会
ではBtコーン種の認可を保留にした。
こうした事例からもわかるように、有機作物の栽培者や利用者は遺伝子組換えの
影響を憂慮する。遺伝子組換え作物の種や花粉が風や昆虫により運ばれ、遺伝子
組換え汚染が広がるためだ。
アンチGMの発端となった昭和電工の健康食品「L‐トリプトファン」事件
米国でアンチGM食品運動の発端となったと云われているのが「L‐トリプト
ファン」事件。1989年、日本の昭和電工が遺伝子組み替え技術を応用し製造
した健康食品「L‐トリプトファン」を服用し、米国で筋肉の傷みや咳、呼吸
困難、皮膚の発疹を訴える患者が続出。37人が死亡し、関連の健康被害は5千人
以上におよんだ。
これに対し、米疾病予防センター(CDC)は、同製品と好酸球増多・筋肉痛症候
群(EMS)との関連性を指摘。また、「L‐トリプトファン」から、毒性物質で
あるnovel amino acidが発見されたことも報告。この物質は遺伝子組み換え
以外の技術で製造されたトリプトファンには存在しないという
('90年 Science誌)。
この事件で昭和電工は被害者に対し、20億ドル以上を支払っている。当時、
一般の食品に対して行われる安全性テストでは、遺伝子組み換え食品の影響を
検出することは不可能で、特別な検査も行われていなかった。
また、まだ記憶に新しい事例では、2000年9月に起こったStarLinkトウモロコシ
事件がある。これは、Kraft Foods食品やTaco Bellのタコシェルに遺伝子組み
換えトウモロコシが使用されていたというもの。
このトウモロコシは家畜飼料
への使用のみが許可されており、人の食品への使用許可は受けていなかった。
研究者はこのトウモロコシについて、「通常のトウモロコシに比べ消化が遅く
なるよう作られており、人が食べるとアレルギー反応を引き起こす恐れがある」
と指摘している。
政府機関による「GM食品」意識調査、7割強が安全性に疑問
日本でもBSE(狂牛病)問題の発生以降、食品の安全性に対する警戒意識が強ま
ったが、米国でも、特に9.11のテロ以来、特に食品の安全性に関して消費者は
過敏になっている。
GM食品についても、政府機関が安全性をいくら主張しても、アレルギーなど長期
的影響が不明として研究者や一般消費者の不安が中々拭えないのが現状だ。
ノースカロライナ州立大学などの研究機関は、米国勢調査2000をもとに米国民
の食の安全性に対する意識を分析しているが、その中でGM食品の是非を問う質問
では、半分以上が「分からない」と回答している。
また、47%が「GM食品は安全
でないどうか分からない」、28%が「安全ではない」、25%が「安全」と回答
した。ラベル表示については、92%が「必要」と答えている。
サプリメントのラベルにGM使用か否かを表示
ところで、健康食品業界もGMの影響は免れない。現在、エネルギー・バーやシリ
アル、Slim Fastなどのダイエット食品にも遺伝子組換え原料が多く使われてい
るといわれている。
現実に、米国立がん研究所(NCI)でも遺伝子組み換え植物を原料にした抗がん
に焦点を当てたサプリメントの開発に資金援助を行っている。
そうした中、サプリメントの不純物や含有量の虚偽など不良品を排除する目的で、
製品製造にGood Manufacturing Practicesを採用しようという提案の最終案が
このほどまとめられた。
これによりサプリメント製造業者は、配合成分の安全性、有効性を立証する責任
を持たねばならなくなる。また、採用従業員の資格や身元保証を明確にし、原料
から製造段階、箱詰めなどのパッケージング、さらに配送にいたるまで完全な
監視システムを確立し、製品の安全を確保することが求められる。
この中の、食品アレルゲンに関するラベル表示についての項目に、遺伝子操作を
行った成分か否かに関する記載がある。アレルギー反応を起こす危険性を検討に
入れ、National Nutritional Foods Association(NNFA)はFDAに対して、
生の原料、遺伝子組み換え技術によって作られた食品・成分はすべてラベルに
明記するという措置を要求している。
消費者の選ぶ権利を擁護するためにも、遺伝子組み換え食品であるか、あるいは
そうした原料が含有されているかなどの情報を消費者に包み隠さず提供するよう
求めている。
消費者意識を考慮に入れ、相次いでノン遺伝子組み換え製品開発
米国では、サプリメント原料に大豆がよく使用されるようになったが、大豆は
トウモロコシと並んで遺伝子組み換え技術が最も応用されている素材でもある。
サプリメント開発企業は、未だ米国民のアンチ遺伝子組み換え意識が根強いこと
を考慮に入れ、ノン遺伝子組み換え製品を相次いで打ち出している。
製造会社Shakleeもこの数年、大豆プロテイン原料にノン遺伝子組み換えのみを
使用。ただし、ノン遺伝子組み換え製品は通常の製品より割高になっている。
米国では、種から製造過程の最終段階までを厳しくチェック、ノン遺伝子組み換
えのお墨付きは、Identity Preserved Program(IPP)が発行している。