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「健康食品」による健康被害は4%程度
食品や医薬品が安全であれば、「健康食品」は必要ない

2016年7月4日(月)、東京都新宿区(牛込箪笥区民ホール)で「第1回健康食品の安全性に関するセミナー」が開催された。基調講演では、鋤柄 卓夫氏(食品安全委員会事務局 評価第二課長)が、「健康食品の安全性を考える」と題して講演した。

国民の過半数が健康食品を利用

平成26年度の東京都福祉保健基礎調査によると、「健康食品を毎日使用している」が16%、「時々使用している」が23%。また、平成24年度の消費者委員会のアンケートでは「健康食品を毎日使用している」が26%、「たまに利用している」が32%という。

いずれにしても、もはや国民の過半数が健康食品を利用しているということになる。日本で、今後10年に、65歳以上の高齢者が3人の1人の割合になることを考えるとさらに、高齢者向けの健康食品のニーズが高まることが予測される。

すなわち、認知症、変形関節炎、がんなどの対応商品についてはさらに需要が高まるであろう。とはいえ、世に出ている、健康食品の全てがエビデンス(科学的根拠)に裏打ちされたものかというと、残念ながらそうともいえないのが現実である。

消費者は「健康になりたくて」健康食品を摂取するが、一方で健康食品に対する不信の声も根強い、と鋤柄氏は指摘する。そのため、食品安全委員会では、健康食品による健康被害を最小限にとどめるため、「食の安全ダイヤル」という電話相談窓口を設けているという。

過去に、アマメシバによる健康被害や中国製ダイエット食品に医薬品成分が含まれていたことなどが指摘されたことがある。問題はこうした健康食品による健康被害だが、実際には、特に多いというわけでもなく、健康食品により体の不調があったとの報告は1年でだいたい4%程度という(平成26年度東京都福祉保健基礎調査)。

報告を行わない、潜在被害者がいることも当然考えられるが、とりわけ副作用など、健康食品の信頼性を毀損する事象が増加しているというわけでもない。昨年6月より機能性表示食品制度がスタートしたが、消費者がエビデンスのある、健康に有益な商品を選択できるという環境も整いつつある。

食品安全委員会、健食の選択は「わからない中での選択」

食品安全委員会では昨年6月に健康食品に関するワーキンググループを設置し、健康食品全般について、リスクや懸念事項などを冊子にまとめている。

この中で「健康食品」の安全性や摂取に関して著しているが、例えば、健康食品を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」である。健康食品による健康被害の実態はつかみにくい。また、健康食品は薬の代わりにならないので医薬品の服用を止めてはいけない、病気治療中の人は原則健康食品を摂らない、など19のメッセージとしてまとめ、健康食品と安全につきあうために、健康の基本がまずは健全な食生活、適度な運動、休養・睡眠であることを忘れず、健康食品によって本来避けられるはずの健康被害を防止するようにしてほしい、としている。

健康食品の長期摂取の安全性検証、過剰摂取や医薬品との相互作用の問題など、確かに利用においては留意すべき点もある。しかし、それら全て医薬品を中心に据えての裁断というのもどうか、ということもある。

まず、医薬品そのものの薬害・副作用など看過できない問題も多い。厚労省が推奨した子宮頸がんワクチンについては、今もって接種後多くの女子中高生が副反応や重篤な症状で悩まされている。そうした症状の軽減に、ビタミンやミネラルの点滴療法が功を奏しているという報告もある。

また、「食」の安全性を問うならば、健康食品に限らない。「健全な食生活」とは一体どのようなものなのか。遺伝子組み換え食品は、あるいは、ネオニコチノイド農薬を使用した農産物の長期摂食による健康被害の実態ははたしてどうなのか。

有機リン系農薬、アルツハイマー病の発症が示唆

ネオニコチノイド農薬は、2006年に米国フロリダ州で発生したミツバチの大量失踪の原因と目されているものだ。全米各地で、それ以後似たような状況が見られ、CCD(蜂群崩壊症候群)と呼ばれた。

ネオニコチノイドとは「新たなニコチン様物質」の意。つまり、ネオニコチノイド農薬とは、毒性の強いニコチンを化学合成したもので、1985年に農薬多国籍企業バイエル社が開発、昆虫の神経伝達を阻害するが人には低毒性で影響がないとし、当時のブッシュ政権下で販売認可がおりた。

農薬といえば、それまで有機リン系が多く用いられていた。この農薬は神経伝達物質アセチルコリンの分解酵素を阻害し、昆虫の神経を興奮させ麻痺させる。虫の神経系をアタックすることを目的に開発されている。

しかし、この農薬の使用からおよそ40年を経て、虫だけでなく人へも悪影響をおよぼすことが明らかとなり、EUでは2007年にその大部分を使用禁止にした。日本ではいまだにこの有機リン系農薬が大量に使われている。

有機リン系の農薬との関連が疑われる疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、喘息、注意欠陥多動性障害(ADHD)ガン、胎児の異常などがあげられている。米国では500万人以上がアルツハイマー病といわれているが、有機リン系農薬との相関を示唆する研究結果も出ている。

ネオニコチノイド農薬、脳の神経伝達の興奮引き起こす

ネオニコチノイド系農薬は浸透性が高いため、根や葉から吸収され、作物全体へと広がっていく。内部から殺虫効果があり、虫もミツバチもネオニコチノイドに低用量でも暴露すると神経が麻痺する。

有機リン系と違い、ネオニコチノイド系が怖いのは、洗っても落ちないことだ。当初、ネオニコチノイド系は有機リン系より人に悪影響がない、虫は殺すが人には安全という謳い文句で登場した。

日本におけるネオニコチノイド系農薬の国内出荷量は年々増加の一途を辿っている。この10年で約3倍に増え、農業や林業、家庭用(住宅建材、シロアリ駆除)など用途も多岐に渡っている。

現在、農薬使用で日本は世界第2位。2008年に韓国が日本を上回るが、それまでは日本が首位を独占していた。日本では、すでにEUで使用中止とされている有機リン系農薬もネオニコチノイド系農薬の6,7倍の使用など、まさに農薬大国といっていい。

有機リン系とネオニコチノイド系の両方の農薬を混ぜて使うことの相乗毒性も懸念されている。農薬はよく洗えばいいといわれるが、浸透性のネオニコチノイド系農薬は作物の芯まで浸食する。

現在、日本は国土の7%が水田で、そこに農薬の約40%が散布されている。主食の米は大丈夫なのか。野菜に果物、日本中の田畑のからできる作物が今、有機リン系とネオニコチノイド系農薬に浸かっているのである。

食品や医薬品が安全なものであれば、本来「健康食品」は必要ない

ネオニコチノイドのような農薬漬けの食品にしろ、医薬品の薬害にしろ、人はいまだその壮大な人体実験の検証途上にあるといえる。その検証の途上で、有害なものを排除していくしか術はない。

確かに、健康食品が、その多くの謳い文句のように健康を保証するとは限らない。しかし、農薬や薬剤など健康を害するものからの防衛のために、健康食品が誕生したという側面もある。

農薬や食品添加物のような化学物質、そして薬剤が人体になんら悪影響を及ぼさないものであったならば、この半世紀、健康食品のニーズも生まれなかったであろう。

健康食品の効用や安全性はその素材の長期摂食の歴史が物語っている。民間伝承、長期摂食こそが、なによりの科学的エビデンスであるという考え方もできる。

ともあれ、食品や医薬品が人々の健康に寄与し安全なものであるならば、本来「健康食品」など必要のないものである。

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