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跋扈する反ホルミシス論、その論拠を嗤(わら)う
なぜか、低線量率放射線の有効性を認めない人々

低線量放射線の有益性、いわゆるホルミシス(微量の放射線による生体への有益な刺激)効果だけはどうしても認めないという人々が存在するようだ。ホルミシス効果の科学的検証はすでに数千例ある。反ホルミシス派の論拠とはどのようなものか。『WiLL』5月号で漫画家の小林よしのり氏がホルミシスを信奉する人々をカルト信者と指弾している。氏の論拠を検証する。

「ホルミシスは仮説ではない」(武田邦彦・中部大学教授)

『WiLL』2012年5月号の「放射線は体にいい説」を嗤(わら)う」と題した記事で、漫画家の小林よしのり氏がホルミシス効果を支持する人々をカルト信者と批判している。冒頭から、次のように手厳しい。※「嗤う」は“あざける。嘲笑する”の意。

「低線量放射線は体にいい」などと戯言を唱える「放射線ホルミシス」なるトンデモ説を、自称保守派の錚々たるご老体の方々が信奉している。かつて高学歴の若者が、オウムというカルトに嵌っていったのを思い出す現象である。

いわく、ホルミシス支持派をあたかもオウム信者の扱いである。さらに、以下のように続ける。

トンデモカルトの似非科学信者は一見、もっともらしい「データ」を出してくるが、大抵の場合、その「データ」は主張に都合よく「料理」された、怪しげなものばかりである。

こう指摘し、ホルミシスを信奉する人々をカルト信者とあざ嗤(わら)うわけである。後述するが、「年間1mSv」を提唱する放射能怖い派の教祖的存在である、かの武田邦彦氏(中部大学教授)もホルミシス効果を認めている。武田氏は「ホルミシスは仮説ではない」、とまで言い放っている。となると、武田氏は小林氏にとって、もはや嗤うどころか、さげすみの対象となるご仁なのであろうか。

ところで、『WiLL』2012年5月号の小林氏の反ホルミシス論はというと、氏の表現を借りるならば、都合よく「料理」された雑多煮で、持論に合わないものは意図的にか、排除している。事実誤認もあり、ミスリードもはなはだしい。

低線量放射線の人体への有益性が世界的に知られるきっかけとなったのは元ミズーリ大学教授のトーマス・D・ラッキー博士の1982年の論文(Health Physics Journal:「米国保健物理理学誌」12月号)だが、これにはおよそ200の論文が添えられていた。つまり、30年以上も前から、ラッキー博士以外にも多くの研究者らがホルミシス効果を検証していた。

ラッキー博士の論文に触発され、この20年、低線量放射線の人体影響の検証を日本が世界に先がけて行ってきたことはすでに紹介した通りである。ホルミシス効果の科学的検証は国内外では3000例からあるといわれている。こうしたホルミシスの検証事例を小林氏は全て目を通したとでもいうのだろうか。ホルミシス支持派をカルト信者とまで侮蔑するからには、よほどの論拠があってのことなのか。

LNT(直線)仮説、科学的暗黒時代の遺物

ところで、「年間1mSvが世界的なコンセンサス」と頑なに主張していた武田邦彦氏(中部大学教授)がDVD「たかじんのそこまで言って委員会 超・原発論」の中で、「放射線は当たった方がいいにきまっている」「ホルミシスは仮説ではない」と述べ、放射線は低線量でも怖いとこれまで武田氏を支持していた人々が落胆している。 掲示板「武田邦彦先生・・・私悲しいです。


武田「ホルミシス仮説なんてのはね、仮説であるはずないじゃないの。こんなの当たり前ですよ」

DVDは昨年12月16日に発売、「たかじんのそこまで言って委員会」はやしきたかじんと辛坊治郎がタッグを組んだ過激討論番組で、「超・原発論」ではジャーナリストの宮崎哲弥を司会に大阪大学名誉教授で元ICRP委員の中村仁信氏と武田邦彦氏との対談がほぼノーカットで収録されている。
この中で、低線量放射線の人体への有益性、いわゆるホルミシス効果について武田氏は以下のように発言している。

「ホルミシスという言葉嫌いなんですよ。これは当たり前の事だから。ラドン温泉なんか健康にいいに決まってるじゃないですか。それはラドン温泉に入れば被曝しますから。被曝すりゃその時に防御系が出るから」
「誤解しないで頂きたいんですが、放射線を被曝することによって、その線量によっては当然、生体に対していい影響を及ぼすと思ってます」
「原理的な話はもう十分に分かってるし、もう学問的に仮説の領域は通り過ぎていますよ。それはもう、放射線は当たった方がいいに決まってる」

ホルミシス効果を認めながらも「年間1mSv」の論拠については、次のようにいう。

「ICRPはNPOですし、えらい先生が皆集まってますから。それから今までの国際的な基準を決めてきたという実績もありますね。だから尊重しなければいけないんですが、あくまでも日本国民は日本国内の決定に従うべきだ。従って現在私の認識は、日本の国内法が依然として1年1ミリシーベルトを基準にしてる、という事で1年1ミリシーベルト」

つまり80年前のマラーのショウジョウバエの実験に基づいて採択した、放射線は微量でも有害で、毒性は直線的な比例関係にあるとするLNT(直線)仮説を根拠としたICRPの放射線の安全基準に日本は批准しているため、それに従わなければならないと武田氏は主張しているわけである。

たとえ、1927年のマラーの実験以降、世界の科学者がヒトのDNA修復機能を明らかにし、マラーの誤りが指摘されたとしても、80年前のマラーの実験に基づいたICRPの定めた基準値に従うべきであるということだ。つまり「地球は球体ではなく平面体である」と世界が合意しているならば、それに合わせるべきだという論理である。このネットによる情報化時代にそうした科学的暗黒時代の迷亡にいつまで惑わされている人間がいるだろうか。米国DNA研究核医学会の大御所であるカリフォルニア大学名誉教授のマイロン・ポリコープ博士らはLNT仮説を「20世紀最大の科学的スキャンダル」と声高に指摘している。

ともあれ、武田氏はトーマス・ラッキー博士が提唱しているホルミシス効果は異説ではなく、当たり前のことと認めているようだ。放射線の生体影響はINT仮説でいう直線系ではなく非直線系であると認識しているようだが、それでも世界のコンセンサスには従わなければ、とじくじたる思いでいるのだろうか。善意に解釈すればであるが。

ちなみに、この「たかじんの〜」で対談した中村氏は月刊新医療2011年7月号で、「最近の本屋の店頭には、放射線関係の本がよく並んでいる。まともなのもあるが、ひどいのもある。自然放射線と違って人工放射線は怖い、内部被曝は外部被曝と違って微量でも危険などと、勝手なでたらめを書いている」と戒めている。 参照:「放射線科医として原発事故放射能漏れに思うこと」 (月刊新医療2011.7号)

ラッセル博士のメガマウス実験でもマラーの仮説を否定

話を『WiLL』5月号の小林氏の反ホルミシス論に戻そう。
この中で、看過できない箇所が幾つかある。以下のくだりである。

まだ十分ではないとはいえ、これまで蓄積された低線量被爆のデータから、どんなに微量でも放射線は生物学的に有害でプラスの効果はなく、有害な効果は放射線量に直線的に比例して増大する、そして「閾値」(一定量までは効果ゼロという値)は存在しないという学説(LNT仮説には)が、世界 の主流となっている。LNT仮説の基礎となったのは、アメリカの遺伝学者、ハーマン・J・マラーの1927年の実験である。マラーはショウジョウバエのオスの生殖細胞にX線を当てると、その子供のハエに羽根の短いものや目玉の色が異なるものなど、様々な遺伝子障害が起こることを発見、そして放射線量を大きくすると影響の出る頻度も高くなり、両者は直線的に比例関係にあることを突き止めた。

ここまでは大筋間違いない。問題は以降である。明らかに小林氏の事実誤認である。

これに対して、何としてもLNT説を否定したいホルミシス信者は、ショウジョウバエの精子のDNAは修復活動をしない特殊なものであり、その実験結果は人間に対しては当てはまらないと必ず言う。しかしマラーの実験のあとも、1950年代末にはアメリカ・オークリッジ国立研究所のラッセル博士が百万匹ものマウスに放射線を当てるメガマウス実験を行い、さらに日本の放射線医学総合研究所の戸張厳夫博士らは、人により近いカニクイザルを使って研究を行っている。そしていずれの研究においてもマラーの実験を否定するような結果は得られていない。

「否定するような結果が得られていない」どころか、ラッセル博士のメガマウス実験は「マラーの実験を否定するような結果になっている」のが真実である。なによりも、マラー自身、ショウジョウバエの実験による放射線障害はショウジョウバエによる結果であり、ヒトに当てはまるものではないとしている。

ラッセル博士のメガマウス実験とはどのようなものであったか。これについて『放射線と健康』(舘野之男著:岩波新書)から引用させていただく。

1951年、ラッセル博士はハエより人間に近いマウスで突然変異を定量的に測定する方法を開発した。50年代末から「メガマウス(100万匹マウス)・プロジェクト」という大規模実験を始める。最終的には700万匹使ったとしている。そのデータが出始めると、マラーのショウジョウバエの実験による遺伝的障害は、(1)総線量に比例する、(2)線量率に全く影響されない、という仮定が必ずしも妥当ではないことが分かってくる。

以下、舘野氏は次のように続ける。

まず、1958年と59年に出た成果で、マウスのオス(精原細胞)でもメス(卵母細胞)でも放射線の線量率を下げると突然変異率も下がるという実験結果である。この傾向はとくにメスで大きい。これらは前述の仮定(2)「突然変異の発生率は線量率には全く影響されない」が必ずしも正しくないことを示している。
1965年になると、さらにメスのマウスを照射した場合には照射後受精までの時間間隔が長くなると突然変異頻度が著しく低下することが明らかになった。このことはやがてオスでも確められる。つまり突然変異の発生率は総線量に比例するという(1)の仮定も、マウスには当てはまらない。

つまり、ラッセル博士のメガマウス実験でもマラーの実験を否定するような結果となり、LNT仮説が覆されたというわけである。

アルファ線被曝、10Gy(Sv)以下で悪影響なし

では、動物実験ではなく、ヒトはどうか。
1925年に時計の文字盤を塗装する職人、ダイヤルぺインターと呼ばれる約4万人を対象にしたR.E.ローランドらの調査がある。時計の文字盤の蛍光塗料には放射性物質のラジウムが含まれていたが、繊細な仕事のため、職人たちは筆先を舐めて細くし、塗布していたという。ラジウムはアルファ線やガンマ線を放出する。とくにアルファ線はガンマ線やベータ線と比べ、20倍有害といわれている。ラジウムによる内部被曝で下アゴ部分の骨肉腫の発生リスクが高まるが、調査の結果、生涯の積算線量で10グレイ(=Sv)以上の職人が191人で、うち骨肉腫の発症者が46人。10Gy(Sv)以下では骨肉腫の発症者は一人もいなかったという。

このローランドらの調査について、オックスフォード大学名誉教授のウェード・アリソン氏は自著『放射能と理性』の中で、「線量と損傷の関係にLNTモデルは当てはまらない。この研究の最大の功績は、長期慢性被曝ががんを引き起こすしきい値は10グレイ付近に存在するという動かぬ証拠をつかんだことだ」と述べている。

実は、ICRP(国際放射線防護委員会)ですら、ICRP1965年勧告7項で、しきい値なし・積算被曝というLNT仮説の正当性について、「しきい値が存在しないという仮定、およびすべての線量には完全な加算性があるという仮定は正しくないということは知っているが、このような仮定によって危険を過小評価することになるおそれはないことで満足している」としている。
あくまでも防護という原則からLNT仮説を採択しているに過ぎない、実際の放射線の生体影響に則したものではないと認めているのである。

同勧告では、このようにもいっている。「放射線による白血病およびその他の型の悪性腫瘍の誘発機構はわかっていない。100ラド(1Sv=1000mSv)以上の線量を受けた後にこのような誘発が起こることは現在はっきりしているが、それ以下では悪性腫瘍は生じないというしきい線量が存在するかどうかは不明である」。つまり、1Sv以下でのLNT仮説の適用をICRP自体、疑問視しているというわけだ。

三朝温泉、アルファ線被曝で胃ガンの死亡率が低い

さらに、『WiLL』5月号の小林氏の反ホルミシス論を検証しよう。ラッキー博士以降、日本が世界に先がけて行ってきたトップレベルのホルミシス検証をカルト呼ばわりされ、侮蔑されたまま放置しておくわけにはいかない。反ホルミシス論者の稚拙な反証として、小林氏はちょうど手ごろなサンプルでもある。

重要な箇所から一つひとつ挙げていく。
鳥取県の三朝温泉は世界一のラジウム含有を誇る温泉として知られ、ガンをはじめとする難治性疾患の患者が全国から詰めかける。すでに三朝温泉は鎌倉時代より湯治場としてにぎわっているが、岡山大学の御船教授らによる疫学調査で、肺ガンや胃ガンが全国平均の半分以下であることが報告されていた。これについて、小林氏は次のように指摘している。

最も有名なのは、鳥取県三朝温泉の研究である。ホルミシス論者の遺伝学者、近藤宗平氏のグループが1992年に発表したデータによれば、三朝温泉地区とラドン温泉のない周辺地域の住民を比較したところ、三朝温泉地区の住民のガン死亡率が大幅に低かったというのだ。ところが、同じ研究グループがその後、再調査を行って分析し直した結果、三朝地区と周辺地区では大きな差は見られないことを確認し、1998年に発表。1992年発表の調査にはデータ収集に問題があったことや、三朝温泉地区のガン死亡件数を少なく見積もっていた可能性などが指摘されている。にもかかわらず、ホルミシス信者は1992年の発表だけを宣伝している。これはデータの操作というよりは、詐欺的行為である。

この再調査の結果では、全ガン、肺ガンはほとんど変化はなく、胃ガンの死亡率だけが低いということが分かっている。前述のように、ラジウムはアルファ線を放出する。アルファ線はガンマ線やベータ線と比べ、20倍危険ではないのか。三朝温泉地区の人々は吸引や飲泉で常に局部に集中的に強い刺激を与えるアルファ線の脅威にさらされているのである。にもかかわらず、胃ガンの死亡率が低いというのはどういうことか。上記の小林氏の記述ではこの点が作為的にか欠落している。

さらにいえば、オーストリア・アルプス山系にあるバドガシュタインの坑道では自然界の3000倍ものラドンガスが放出されているが、ここにアルファ線被曝による治癒効果を求めて世界中から人々が詰めかける。アメリカ・モンタナ州にもウラン鉱山跡に作られたラドン施設があるが、ここにもさまざまな疾患を抱えた患者がホルミシス効果を求めて集う。日本では玉川温泉の北投石によるホルミシス効果がよく知られている。
カルト信者ではなく、知性も教養もある人々が、わざわざ難治性疾患やガン治療のために、大枚をはたいてアルファ線被曝を求めて出かけるのである。

放射能で10年先、20年先にガンになるかも知れないと怯える人々は、それこそ2人に1人がガンになる時代である、放射能ストレスでガンリスクも高まるであろう。10年先、20年先といわず1日も早くガンになって、抗ガン剤と高線量放射線治療で死線をさまよったあげく、最後の頼みの綱として、三朝や玉川のラジウム被曝でガンを克服するといいだろう。



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