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10月13日、11月10日に東京、大阪で「キチン・キトサン協会研修会」(主催:キチン・キトサン協会)が開催され、ミネラル研究の第一人者である糸川嘉則氏(福井県立大学看護福祉学部学長、京都大学名誉教授)が、「ミネラルに関する最近の話題」と題して講演を行った。この中で、糸川氏はマグネシウムや亜鉛など必須ミネラルの働きについて解説した。

1960年以降、人工塩の普及でミネラル欠乏に拍車

全ての生命は海から誕生したといわれる---。
母体に胎児が漬かっている羊水は海水の成分組成と非常に似かよっており、胎児期には鰓(エラ)の痕跡も見うけられるといわれる。母なる大地とは、まさに海洋を指した言葉ではなかろうか。

その生命を形作った海のミネラル成分が凝縮された海水塩を、その昔日本人は摂っていた。そうした自然塩にはニガリとよばれるマグネシウムや亜鉛、カリウム、鉄などが適度に含まれていた。
それが1905年に塩の専売制度が敷かれ、さらに1960年に「イオン交換膜製塩法」が制定されると、ミネラルが欠如した塩化ナトリウム99%(NACL)以上の人工塩へと変貌していった。

そして、いつの頃からだろう---。
慢性的なミネラル欠乏で、さまざまな疾病が引き起こされていると専門家の間で指摘されるようになった。

ミネラル欠乏の蔓延がアトピーや花粉症、糖尿病、心身障害など招いたとも

塩化ナトリウム塩は塩素とナトリウムの化合物だが、こうした微量ミネラルが欠如した化学塩が使われるようになってからアトピーや花粉症、糖尿病や高血圧のような生活習慣病、さらには無感動・無気力、イライラといった精神障害まで増えてきたとする説もある。

これについては、十分な検証が必要だが、少なくとも、この40年間、穀類の精製に加え、人工塩の使用で、酵素反応に関わるミネラル不足が蔓延し、生体調整に何らかの弊害が生じ、疾病の引き金になったことは間違いなかろう。

昨年4月、必須微量ミネラルの所要量・許容上限量が設定

ミネラルは114種類あるとされ、中でもヒトの健康に関与するものとしてはカルシウム、マグネシウム、鉄、カリウム、亜鉛、セレン、クロムなどがよく知られる。摂り過ぎると副作用が懸念されるが、微量でも生体調整に欠かすことができないことから、必須微量ミネラルと呼ばれる。

「これまで必要なミネラルと有害なものとに分けられていたが、そうではなく、量とバランスが問題。多く摂り過ぎても、少な過ぎてもいけない。ミネラルが欠乏すると各臓器の機能障害が起きる。必要量と中毒量の間を摂ることが大切」と糸川氏はいう。

昨年4月、日本で「第6次改定日本人の栄養所要量」が施行され、13種類のミネラル(カルシウム、鉄、リン、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、銅、ヨウ素、マンガン、セレン、亜鉛、クロム、モリブデン)の1日の所要量が明示された。さらに、上記13種類のミネラルうちナトリウム、カリウム除くミネラルの許容上限摂取量が設定された。

「これまで日本は所要量ではなく、目標摂取量として定められていた。他国に比べ非常に遅れていたが、今回始めて、一気に8種類の微量元素の所要量が決められた。また、これ以上摂ってはいけないという許容量が決められたのも第6次の画期的なところ」(同)。

こうした行政の措置により、微量ミネラル摂取の重要性が公式に認められたが、近年ミネラルへの関心が高まる中、過剰摂取による弊害が懸念されることから、許容上限摂取量についても明示されたものと推測される。

カルシウム、マグネシウム多く含む硬水は循環器系疾の危険性を下げる

今後、高齢者人口の増加に伴い循環器系疾患が増えることが予想されるが、「日本の水道水や井戸水を調べ、ミネラルを計ったところ、東北や北陸は酸性の水で、東海道はアリカル性の水ということが分かった。酸性の水の地は高血圧が多く、アルカリ性の水の地は高血圧が少ない」と糸川氏。カルシウムやマグネシウムを多く含むアリカル性の水は「硬水」と呼ばれ循環器系疾患によいとされる。一般に日本の水は、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ度類金属の含有が少なく「軟水」といわれている。

ただし、「カルシウムを多く摂り、マグネシウムの少ないフィンランド、アメリカ、オランダなどは虚血性疾患の死亡率が高い。これに対し、日本、ユーゴ、ギリシャなどはカルシウムが少なく虚血性疾患の死亡率が低い」(同)。カルシウムとマグネシウムについては摂取比率が重要とされており、2.5対1が理想とされている。

マグネシウムは生体の300以上の酵素反応に関わり、欠乏すると「筋肉では痙攣、ひきつけ、しびれ、筋力低下、手足のもつれ、めまいなどが起きる。精神・行動面では注意力散漫、記憶障害、抑うつ状態、消化器では腹痛、循環器では頻脈、不整脈が出たりする」(日本医科大学第二内科助教授 福生吉裕氏)とされる。
マグネシウムは自然塩のニガリや米ぬかなどに多く含まれているが、精製により、慢性的な欠乏状態にあるといえる。

この他、注目されているミネラルに、亜鉛がある。働きとしては風邪への有効性の他に、肝臓や筋肉機能、骨、歯、髪の毛、皮膚などの組織構築、正常な体内の機能に必要な化学反応を促進する酵素活性に大きな役割を示すことが明らかにされている。
また、「環境ホルモン」による精子減少が指摘されているが、亜鉛は精子生成や性機能の回復作用があることでも知られる。しかし、摂り過ぎると、嘔吐、下痢、体力減退、鬱病などを招くとされる。

鉄分の過剰摂取で腸内感染、心臓病や卒中の危険性も

各種ミネラルの作用と過剰摂取による弊害についてここでは省略するが、とくに、最近の研究報告の中で問題視されているのが「鉄」。
※許容上限摂取量については「第6次改定日本人の栄養所要量」を参照

日本では「第6次改定栄養所要量」の中で、1日の所要量を18歳以上で男10mg、女12mg、許容上限値は40mgとしている。ちなみに米国では、今年に入って、米国農務省が、4年間の研究分析を経て、ビタミンやミネラルの1日の標準推薦量(RDA)および許容上限摂取量を新たに発表したが、その中で、鉄分については男性および閉経期後の女性は8mg、閉経期前の女性は18mg、妊婦27mg、許容上限は45mgとしている。

鉄分の過剰摂取による弊害について、最近の研究報告ではオハイオ州立大学研究グループが、ヒトの小腸細胞を使った実験を行ったところ、鉄分濃度が高い細胞はバクテリアの侵入を受けやすく、正常濃度の細胞と比べ、バクテリアの生存数が高く、腸内感染を引き起こしやすいことが判明したと報告している(Journal of Nutrition誌)。
鉄分は生理により女性が欠乏しやすく貧血を招くことが指摘されているが、研究者によると、「鉄分欠乏を示す患者以外、摂り過ぎると健康問題が生じる恐れがある」という。

この他、心臓病や卒中への危険性を指摘する報告もある。フィンランドの研究グループによるもので、少なくとも1度は心臓発作の経験がある男性99人と健康体の99人の鉄分の濃度を比較したところ、鉄分濃度の高い男性の心臓発作の危険率は、低濃度の者と比べ2.9倍高いことが分かったという。

鉄分の蓄積については、若い女性は生理が周期的にあるため体内に多く蓄積することはなく、蓄積が見られるのは45歳過ぎだが、男性の場合は20代頃から徐々に蓄積が見られるため、過剰摂取にならないよう注意が必要とされる(Circulation誌'99/4月号)。

ちなみに米国では、「高齢者の91%が推奨標準量(RDA=1日10〜15mg)以上の鉄分を摂取しており、これ以上の摂取は必要ない」(タフツ大学)という研究報告が発表されており、米国心臓協会(American Heart Association)でも、鉄分が過剰にならないよう鉄分を多く含む赤身肉の摂取制限を勧めているという。

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