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なぜ「糖質制限」はダメなのか、「糖質制限」の落とし穴
〜低炭水化物ダイエットのリスク、米国で警鐘

2019年2月7日(木)、主婦会館プラザエフで、「業界活性特別セミナー」が開催。この中で、柏原ゆきよ氏(一般社団法人 日本健康食育協会代表理事管理栄養士)が出版記念講演「疲れない体をつくる疲れない食事」を行った。

低炭水化物ダイエット「アトキンス式ダイエット」のリスクが米国で指摘

講演の中で、柏原氏は、日本人のソールフードである「お米」をもっと食べることを強く推奨。近年ダイエット法で人気の「糖質制限」には疑問を感じているという。

というのも、日本人は古来より穀物を主食としていた。例えば、糖尿病にしても、米をしっかり摂っていた頃は、発症はほとんどなかった。むしろ米をあまり食べなくなった頃から増えており、穀物の摂取不足が糖尿病のリスクをもたらす、とした。

こうした、柏原氏が疑問視する「糖質制限」のリスクについては、過去に米国で流行った「アトキンス式ダイエット」でも指摘されている。

アトキンス式ダイエットは、2002年、故アトキンス博士が提唱した、炭水化物の摂取制限を行うダイエット法で、「ステーキ、ベーコン、チーズ、バターといったたんぱく質を含む食品を多く食べ、果物や穀類のような炭水化物は極力控える」というもの。肉好きのアメリカ人には大受けし、米国で大ブレイクした。

権威ある医学誌、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンでも、「炭水化物を減らし、良質のたんぱく質を十分に摂る食生活を送れば、副作用なくダイエットできる」と紹介され、当時、低炭水化物食品の愛用者は1500万から3000万人とも、あるいは、アメリカ人の3分の2が試していたともいわれた。

高プロテイン食は腎臓に負担

アトキンス博士がとくに問題視していた炭水化物は、糖に分解されて血液中に入ると、血糖になる。すると、血糖を下げるため、すい臓からインスリンが分泌される。

血糖が急激に上昇すると大量のインスリンが分泌されるが、そうした過剰状態が続くと行き場のなくなった糖質は脂肪細胞に蓄積されやすくなり、体脂肪が増えていく。

そのため、博士はインスリンの分泌をできる限り抑えるため炭水化物を控え、代わりに、満腹中枢を満たして食欲を抑え、体脂肪を燃やし筋肉の増強に役立つたんぱく質をたくさん摂るべきだと主張した。

確かに、こうしたアトキンス理論は臨床実験でも効果が立証された。しかし一方で、疑問符を投げかける専門家たちもいた。まず、アトキンス式ダイエットは確かに短期間の効果を裏付ける研究報告はあるものの、長期的な試験は皆無であった。

そのため、「長年にわたって脂肪分の高い肉やベーコンを食べ続ければ、当然、心臓疾患、糖尿病、脳卒中、ある種の癌に罹るリスクが高くなる」と各種疾患への罹患リスクが懸念された。

アトキンス式ダイエットは短期的な効果はあるものの、長期的な効果はわからない、高プロテイン食は腎臓への負担が大きくなると警鐘が鳴らされた。

糖質を制限した食事、死亡率が高くなる

「糖質制限」については、日本でも不安視する研究報告が出ている。能登洋氏(国立国際医療研究センター病院糖尿病・代謝・内分泌科)らの研究チームが「ご飯やパンなどの糖質(炭水化物)の摂取を制限するダイエットを5年以上続けると死亡率が高くなる」と報告している。

能登氏らが糖質制限食に関する492の医学論文中、ヒトの死亡率を調べた9論文を分析したところ、5〜26年の追跡期間中に、糖質制限食で、約1万6千人が死亡していた。対象は約27万人で、糖質摂取量の割合が最も少ないグループの死亡率は最も多いグループの1.31倍で統計上で明確な差が出たという。

日本人は穀物を主食としてきた。しかしながら、精製した白米ではなく、本来は玄米や雑穀といった未精製の穀類の摂取が薦められる。

米国で、アメリカ人がより健康でいるための指針を示した、「アメリカ人の栄養ガイドライン」が国保健社会福祉局より5年ごとに公表される。

2005年1月公表のガイドラインでは、初めて全穀物を毎日食べるよう薦め、1日の穀類の総摂取量のうち、少なくとも半分は全穀物にし、1日当たり3オンス(85グラム)以上摂るよう推奨した。

このガイドラインでは、「摂取カロリー削減」「野菜・果物・全穀物の摂取奨励」を薦めているが、あたかも2002年にブームとなった、アトキンス式ダイエットを否定するかのような内容で、米国が「肉食」中心の食事から、「和食」へと大きく移行していることがうかがえる。

未精製穀物の摂取、がんや心血管系疾患などの死亡率を低下

未精製穀類の健康への有用性については、米国で55歳から69歳までの3万8千740人を調べた研究で、未精白穀物を摂取するほど病気に罹らない健康な生活が営めるという報告も出ている。

また、未精白穀物を1日1杯食べることで、がん、心血管系疾患などの死亡率を低下させることができるという報告もある。こうしたことから、米国では、全穀物のパンやシリアルに、「心臓病やがん予防」のラベル表示を許可されている商品もある。

アトキンス式ダイエットでは炭水化物摂取による急激な血糖上昇を問題にしているが、未精製穀類だと食物繊維が豊富なため血糖の上昇もゆるやかで、インスリンの大量分泌ということもない。

また、炭水化物の摂り過ぎは、タンパク質と糖が結びつき(糖化)、肌のコラーゲンが弾力を失い、シワやたるみの原因になるとされているが、食物繊維が豊富な未精製穀物であれば「抗糖化」にもなる。

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