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【 NIH(国立衛生研究所)の動向 】

西洋医療で疾病はもう癒せないのか。米国では西洋医療に替わる医療(代替医療)を 求める動きが急速に高まっている。食品の機能性による栄養療法を筆頭に心理療法、 催眠療法などホリスティック(全体的)な観点から疾病と向きあう傾向が強まってい る。日本でもここ数年、心による”癒し”やアーユルヴェーダによる自然派志向によ る疾病改善が話題になるなど西洋医療離れが静かに進行しつつある。 今回は米国NIH(国立衛生研究所)の代替医療調査室の取り組みなど紹介する。

西洋医学への疑問視からハーブ療法など代替医療がブームに

米国では、西洋医療への疑問が湧き上がるにつれてハーブ、栄養素を中心とする代替 療法への関心が高まってきた。それは、想像を超えた大きなものへと広がり、今や一 大ブームを巻き起こしている。そうした高まる消費者の関心を見過ごしには出来ず、 1992年政府は米厚生省の一部であるNational Institute of Health(NIH=米国立衛 生研究所)の中にOffice of Alternative Medicine(OAM)を設立した。

そもそものOAMの設立目的は、「各代替治療方法の評価・査定を手助け」し「その有用性を決 定、直接NIHに報告」するもの。そのため、NIHが資金援助する多くの研究プロジェク トを支え、またOAM自体からも各研究プロジェクトへの援助を行う。従ってOAMは特定 の療法を推奨あるいは実施することはない。

昨年、代替医療調査室はNCCAMと名称を変え、権限を強化

代替治療の人気が過熱するにつれ、OAMの役割もさらに幅が広がっていっている。 98年、議会はOAMの改革を行い、名称もNational Center for Complementary and Alternative Medicine(NCCAM)と改めさらに強い立場と権限を与えた。研究プロジェ クトへ援助する予算も、98年分で5千万ドルへと増大。現在全米を通して、大学や医療 関係機関に設けられた13研究センターで行われている約50件の研究プロジェクトを 支援している。

各センターでは喘息、エイズ、がん、老化、卒中、心血管系疾患や痛み、中毒治療へ の代替療法の有用性、安全性研究に焦点が当てられている。対象となる代替療法は、 ハーブ療法、ビタミンを中心とする栄養素療法、鍼、ホメオパシー、バイオフィード バック、ヨガ、瞑想など多岐にわたる。研究の場には、研究者、臨床医、免疫学者な ど優秀でなおかつ代替医療に知識と理解のある専門家が顔を揃えている。現在行われ ているあるいは今後計画されている大規模かつ綿密にデザインされた研究には、次の ようなものがある。

セント・ジョンズワート、ギンコ、グルコサミンなどの有効性の再検証を開始

@ 鬱症状など精神的問題へのセント・ジョンズワート使用(研究進行中)/NCCAM 他、National Institute of Mental Health(NIMH)、Office of Dietary Supplementが協力、重いうつ病に悩む患者336人を対象に行われている。患者を3分の 1ずつ――1)セント・ジョンズワートを毎日900mg投与2)偽薬3)抗鬱剤Zoloft投与 ―― の3グループに分け、有用性、安全性を調べる。これまでに行われた同ハーブ研 究の中でもかなり大規模で精密なものになると期待されているが、ただ結果が出るの は数年先の話。

セント・ジョーンズワートは当初、鬱症状への改善が認められると米国でも評判になった が、本格的な研究はこれから。精神障害に悩む米国人の間で、ここ2,3年話題になって いる人気ハーブではあるが、一方で気がかりが報告も出ている。

昨年Lancet10月3日号に掲載された記事によると、セント・ジョーンズワートを服用後日光に当たると、一時的 な神経障害を起こすことが分かったという。この症状は服用を止めてから回復へと向った がセント・ジョンズワートの活性成分である光活性化ハイペリシンという物質がそうした障 害を引き起こしたものとみられている。

また今年Fertilityand Sterility3月号に掲載され た記事によると、受胎を阻む可能性があることも指摘されている。これはカリフォルニア州 ローマリンダ大学研究者グループが培養器の実験で確認したもので、セント・ジョーンズ ワートが卵子に入り込む精子の能力を阻むことが判ったという。研究者は「多くの複雑な 要素が人体の受胎に影響を与えるため、より深い研究が必要」との慎重な姿勢をみせて いるという。

A アルツハイマー疾患へのギンコ・ビロバ投与/75歳以上の高齢者を対象に、無作 為、二重盲検、偽薬対照試験を行う予定。1日にギンコ・ビロバ240mgと偽薬投与を比 較する。また、75歳以下での痴呆症罹患率研究にも使用される予定。

B 喘息患者へのビタミン投与/カリフォルニア大学デービス校との協調提携により、喘 息患者へのビタミンC投与が肺・呼吸機能へ与える影響を調べる。また、この他にも骨粗 しょう症や鬱症状への鍼治療、関節炎への栄養補助剤グルコサミン投与、肝臓障害や コレステロール、高血圧へのオオアザミ(milk thistle)などの影響、有用性、安全性に関 する研究への再検査が進行、あるいは予定されている。

さらに現在は、がんに対する代替療法の影響に関する再研究が60%を占めるという。代 替治療への期待感が高まる中、全米の調査ではがん患者のほぼ半数が何らかの代替療 法を利用しているという統計が出ている。National Cancer Institute(NCI)の同意の元、 サメの軟骨や複合栄養素プログラムをはじめとする多種類のがん分野への代替治療の 再研究が始まろうとしている。

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